「愛すべき存在、三上正夫」すばらしき世界 あささんの映画レビュー(感想・評価)
愛すべき存在、三上正夫
本作は今の社会を炙り出した傑作。
三上正夫、彼は幸せなのか、不幸なのか。。
三上の生い立ちは不幸である。結局母にも会えぬままだった。人生のほとんどを刑務所の中で過ごし、まともに社会で生きたことがない人がやっと、やっとまともに生活できそうになったところのラスト。
ーーシャバは我慢の連続よ
社会は不条理で溢れている。長澤まさみ演じるテレビ局社員、介護施設の職員、あぁいう嫌な奴いるいる、あるある。
劇中の言葉通り、シャバは我慢の連続である。
そしてレールに乗って生きている人もたいして幸せでわない。だから皆んな適当に流して、そこそこ適当に生きているのだ。
私生児として生まれ母親とは生き別れ、施設で育ったという三上。本作では「愛着障害」についても触れられている。
三上正夫は優しくて真っ直ぐでいい奴。なのに暴力性、カッとなっるとすぐに手が出るなどの性質の二面性を持ち合わせている。
この悪い部分は幼い頃の環境が要因であるようなことが劇中でも出てくる。
三上も「愛着障害」によって社会にうまく適応できなかった一人であるのだ。
この世は三上のような男には生きづらすぎる、むしろ刑務所の中の生活の方が性に合っていたのかもしれない。
だけど、世の中悪いことばかりでもなく三上の人懐っこさや憎めない性格に周りの人は気付き、手を差し伸べる。
社会の不条理と矛盾とほんの少しの人々の優しさで成り立っているということを描いた作品である。
それにしてもキャスト陣が実力派ばかりだ。役所広司はもちろんのこと、伊藤太賀の演技が素晴らしかった。お風呂のシーン、あれは泣ける。
そして現在公開中の『ヤクザと家族』にヤクザとして出演中の北村有起哉、今回は反社を拒絶する役所の職員として演じていることにちょっと笑ってしまった。
三上が幸せだったのか、不幸だったのか。。どちらだったかの捉え方でタイトルの「すばらしき世界」の見え方が変わってきてしまう。謎かけの様にも感じるタイトルです。ラストの少年から渡されたコスモスの花を握る三上の顔が忘れられない。単純かもしれないけれど、三上は幸せを感じたんだと思いたいです。