「やはり、切ない」すばらしき世界 リボンさんの映画レビュー(感想・評価)
やはり、切ない
折しも先日「ヤクザと家族」を見たばかりだったので、主人公の境遇に似ているところもあり、どのようなラストになるのか見守っていました。
どちらも殺人の罪で、14年、こちらでは13年の刑期を終え、出所してカタギの暮らしを真面目に取り組もうとするけれど、なかなか思うようにはいかず、それでもようやくなんとか穏やかに暮らせるかもしれない、カタギの仕事も見つかった矢先、それぞれの理由で亡くなってしまうのが辛かったです。
映画の中での主人公が戦う理由は、大切な人を守るため、通りすがりでも、絡まれてひどい目に遭いそうな弱い人を助けるためでした。でも最初の相手は死なせてしまったし、真面目すぎる受け答えのせいで情状酌量が認められない供述をしてしまう。出所後に弱い人を助けてあげた時は、2人相手に凄い怪我を負わせ、味方になってくれてた小説家を怖がらせてしまうほどだった。
単に大事な人、通りすがりの弱い人を助けるために襲ってきた人を振り払うだけなら、いわゆる「やっつける」だけなら正義のヒーロー達はみんなやってること。アニメの世界なら悪いやつをコテンパンにやっつけるのは良い行いだけど、現実にはケンカっぱやい危険な恐ろしい人にしかならない。でも本当は、きっかけは誰かを守ろうとしただけだったのにな、とやるせない。
激昂しやすいのは、育った境遇からなのか分からないけど、つい昔の、大声だして脅すような言葉も出てしまう。それでも生活保護担当の役所の人や、スーパーの店長?さん、小説家の人とかは、諦めずに更生を見守ってくれた。きっと、主人公の根っこの部分はそこまで腐ってない、駄目な人なんかじゃない、と感じられる部分があったんだと思う。
小説家の人は、主人公が安易に昔の仲間のところに身を寄せた時、本気で叱ってくれたし、もう戻っちゃだめですよ、と涙ながらに訴えてくれた。そういう人に出会えたことは本当に良かったと思う。
途中からは、何かで激昂するたびに「駄目だよ血圧高いんだから、そんなに興奮したら体に悪いよ」って心配して見てました。
テレビ局の人を演じた長澤まさみさん、視聴率を取れそうな人物かどうかだけを気にしてて、見事に「いかにもそれっぽい業界人」を演じていて、良かったです。多分彼がテレビに出てたら、うまいこと編集でお涙頂戴の内容にすり替えられたりしたのかな、とか穿った見方をしてしまいました。長澤さんはコンフィデンスマンでもキングダムでも良かったけど、今回も良い演技でした。
最後、主人公があと1つの洗濯物を取りこまないままなかなか窓に姿を見せず、それが彼の最期となるようにした演出はとても切なかったです。ほんの少しの時間でも元奥さんと、彼女の娘にもう一度会わせてあげたかった。
生活保護申請や、失効した運転免許証の再発行とか、現実に暮らしていくためにしなくてはいけない諸手続きがリアルで、なるほど、と思いました。
13年ぶりに出所した主人公が、「剣道の胴着なら縫えるからそれを仕事にする!!」と意気込んでいた時、身元引受人の奥さんがぽつりと「今の時代、そんな仕事ある?(それで食べていけるほどそこまで受注あるとは思えないけど。。)」という言葉が、時代に取り残されている主人公の境遇を表していて、切なかったです。