「現代日本映画界を代表する名優役所広司も私にとってはどの映画を観ても先ず思うのは“顔デカ!”。今回は顔のデカさが気にならないくらい見事な映画だったのにラストの落ちの付け方が不満。で、減点。」すばらしき世界 もーさんさんの映画レビュー(感想・評価)
現代日本映画界を代表する名優役所広司も私にとってはどの映画を観ても先ず思うのは“顔デカ!”。今回は顔のデカさが気にならないくらい見事な映画だったのにラストの落ちの付け方が不満。で、減点。
①残念ながら(?)塀の中に入ったことのない身としては、冒頭の旭川刑務所のシーンが興味深い。令和の刑務所は大分キレイになってるんだね。②前科のある人間が更正する或いは社会に受け入れられることの難しさを描いた映画は古今東西いくらでもある。しかも元ヤクザ者とあっては困難さは倍返し(言葉の使い方間違ってます…わかってます)。③しかしこの映画が一頭抜きん出ているのはその映画としての見事さ。西川美和という監督の作品は初めて観たが、こんな監督のいる日本映画界も捨てたものではない。主人公が堅気の世界での生きずらさに元の世界へ戻る誘惑に駆られる心象シーンとして登場する東京の夜景の美しさ。あんな美しい東京の夜景シーンは初めて観た。④それだけにラストの付け方はもっと他にあったのではないかと思えて残念。最早堅気だけでなくヤクザにとっても生き辛くなっている現代という閉塞感のある時代にとってもっと夢のあるラストでも良かったのではと思う。どうしても似たような結末を迎える過去の映画『ミスター・グッドバーを探して』や『シングルマン』等の既視感が邪魔する。⑤女優陣はおしなべて好演。(勿論、男優も好演ですよ。特に六角精児は役所広司を向こうに回して一歩も退いていない。)年取ってから露出が増えてきた梶芽衣子はどうしても過去の役柄から暗いイメージがつきまとうが、ここでは珍しく明るい役でそれもなかなか宜しい。1シーンのみの出番ながらも免許証センターの窓口の婦警役の女優も役所広司に一歩も退かず好演。しかしなんといっても短い出番ながら鮮やかな印象を残すのはキムラ緑子。警察の手入れを受ける兄貴分の元に駆け寄ろうとする役所広司を引き止め堅気の世界に押し返す「空は広いって言うよ」は、この映画屈指の名台詞。安田成美も老けたが女優(演技者)の顔になっている。⑥役所広司の更正を支えようとする人々は基本的に善意の人々だ。それでも個人個人、生活や仕事の上でサポートに限界がある点もきっちり描いていているのがリアルで好ましい。ラスト近くの介護施設の職員たちの心ない言動も彼らを非難するのではなく自分達の鏡と捉えるべきだ。どこかで普通と普通でないものを分けていて自分を普通に位置付けてそれ以外を見下していないか考えるべきだ。それでも自分が正しいと思える人にはもう掛ける言葉もないけど。⑦お爺さんを溺れさせかけた障害のある介護施設の職員が台風が来るなか摘んできたコスモスを役所広司に渡すシーンは役所広司ならずとも涙が出てくる。でも、指示されたわけでもないし、摘むということは花の命を絶つということだから、たとえ台風で散ってもそのまま生かしておいてあげた方が良かったのではないか。分からない。ただ最後生き絶えた役所広司がその花を握り締めていたところに監督のメッセージがあったようにも感じる。かといって、この落ちの付け方に納得しているわけではないけれど。