劇場公開日 2021年2月11日

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「才能が撮った映画は観ていて心地がいい。」春江水暖 しゅんこうすいだん shoheiさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0才能が撮った映画は観ていて心地がいい。

2021年2月20日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 この作品を撮った願暁剛(グー・シャオガン)監督は、まだ若い31歳でこれが長編デビュー作ということだが、撮影した作品は成熟した監督が撮ったかのようなショットに溢れていて風格すら漂う。まさにこの作品は才能が撮った映画で、カメラが少したゆとう長まわしのシーンと流れる会話が心地いい。この心地よさは尋常ではない。しかも四季折々の風景を撮るために少なくとも二年以上の歳月をかけていることが、エンドロールから分かった。
 再開発が進む中国・杭州市富陽が舞台で、その町は富春江という河が流れている。その町に暮らす三世代の大家族の姿が描かれている。老母ユーフォンは未亡人であるが、四人の息子がいる。そのうちレストランを経営している長男ヨウフーがユーフォンの面倒をみることになる。長男の一人娘グーシーは幼稚園の先生で、結婚を誓う教員ジャンいるが、グーシーの母フォンジュエンは経済力の問題から結婚に反対する。しかし、老母ユーフォンは孫に自分の好きな人と結婚することを勧める。映画にはよくある話なのだけれど、ここに他の三人の男兄弟の家族もからんでいく。
 様々なシーンで長まわしや河辺の風景が挿入されるけれど、何といっても圧巻は、グーシーとジャンの河辺でのデートの長い長いシーンだ。カメラは横にスクロールするだけで、河を泳ぐジャンをとらえ、先に向こう側で待っていたグーシーと一緒に歩くシーンを、超長廻しでとらえる。他にも長廻しのシーンはたくさんあるが、カメラワークが自然で、観ていて心地がいい。
 中国にはもう一人32歳の天安門事件の日に生まれた天才監督、毕赣(ビー・ガン)がいて、彼もまた「ロング・デイズ・ジャーニー この夜の果てへ」などの作品で、長廻し撮影、長大なワン・シーン・ワッ・ショットの映像を見せて、才能を発揮しているのだけれど、彼らの長廻しは全然ねらいが違う。作り込んだ映像で一つの世界をつくりあげるビー・ガンに対して、水墨画のタッチで景色をとけこませるグー・シャオガンといったところかな。いずれもすごい才能なので、今後が楽しみである。

shohei1484