劇場公開日 2020年2月21日

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「脱露入欧」ダンサー そして私たちは踊った つとみさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5 脱露入欧

2025年12月16日
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鑑賞方法:DVD/BD

ロシア語の発音であるグルジアから、これからはジョージアと発音してくださいと発表していた姿を当時見た。
ロシアの影響下から抜け出し、ヨーロッパ的に生まれ変わりたいという。脱露入欧というわけだ。
その時は、そんなこともあるだろうと余り深く考えずにいた。
しかしこの作品を観て、ジョージアが掲げる脱露入欧は、部外者の自分が考えるほど簡単ではないんだなということを思い知った。

ロシアの影響、もっと言えばロシア正教会の影響、それは価値観や考え方、文化なども含めて、ジョージアに根付いているものであり、今日からヨーロッパの価値観で行くよ!と言われたって、急にハイそうですかと変われるはずもない。

本作はジョージアにルーツのあるスウェーデン人監督によるスウェーデン映画だが、ジョージア人のジョージア舞踏専門スタッフが参加している。しかし彼らはクレジットされていないのだという。
同性愛を扱った作品の製作に関わったことがバレると職を失い場合によっては命の危険すらあるかららしい。
映画制作に関わるだけでこれなのだから実際にジョージアで同性愛者の人はどれだけ生きづらいか想像もつかない。

同性愛者の人々はやはり国外に出たりしているのだろうか。
作中では「この国に未来はない」と言っているが、少なくとも微かな変化は描かれていたと思う。
ジョージアの脱露入欧への道は長く険しいが、着実に進んでいるのだと感じた。

映像やストーリーテリングが繊細で、中でも主演のレヴァン・ゲルバヒアニの演技の繊細さには少々驚いた。
映画初主演の本職はダンサーだと知っていたからだ。
男性の同性愛を扱った作品だと事前知識があったからかもしれないが、ゲルバヒアニが演じた主人公の視線は、恋する者の視線そのものだった。
緩やかに恋に落ちていく感じや、同性愛であることへの自分の中での抵抗、そういった細やかな変化の表現が素晴らしかった。

物語のパンチは少し不足しているかもしれないけれど、優しい雰囲気と繊細さ、そして何かに対する情熱を感じる良作だ。

つとみ
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