「2作目だけど3本目として鑑賞、心意気が伝わる新シリーズ」ナイル殺人事件 つとみさんの映画レビュー(感想・評価)
2作目だけど3本目として鑑賞、心意気が伝わる新シリーズ
私はケネス・ブラナー版のポアロが好きで、「オリエント急行殺人事件」も「名探偵ポアロ:ベネチアの亡霊」もめちゃくちゃ面白かった。
それだけにコロナ禍のせいで見逃した「ナイル殺人事件」を観る機会に巡り会った事自体が既に僥倖である。ありがたや。
さて、「オリエント急行」「ベネチアの亡霊」のレビューに書いた事の繰り返しになっちゃうが、ケネス・ブラナーは明確にポアロを主人公に据え、ポアロが事件との関わりの中でどんな心境に陥っていくのか?を主題として映画が組み立てられている。
ミステリーにネタバレは禁物なのであまり詳しい事は書けないが、「ナイル殺人事件」のテーマはズバリ「愛」だ。
ポアロ自身が己の「過去の愛」とその結末について振り返る話でもあり、登場人物それぞれの「愛」の形が浮き彫りにされる物語でもある。
ジョン・ギラーミン版には無かったオープニングシーンのおかげで、ポアロの急な恋バナにも置いてけぼりにされずに済むし、愛にまつわる悲劇が幾重にも重なって切ない。
愛し愛される事は素晴らしいはずなのに、時に愛は人を愚かにし、時に愛は人を残酷にもする。愛の結果悲劇が生まれ、悲劇の結果誰かの人生が永遠に変わってしまう物悲しさ。
愛し、愛を喪い、傷を隠して生き長らえている。そんなポアロが目にする結末と彼の心情こそ、「ナイル殺人事件」最大の見どころかもしれない。
これは先に「ベネチアの亡霊」を観たせいなのだが、「なるほど、エジプトでこんな事があったから…」と一層ポアロに寄り添う気持ちが高まってきちゃう。
一方、「ポアロと旅する世界旅行」でもあるこのシリーズは、ミステリー映画としてだけでなく旅行気分も味わえるひと粒で2度美味しいシリーズでもある。
ピラミッドでの友との再会、ナイル川を悠々と進む美しい外輪船、アブ・シンベル神殿など、作中でポアロとエジプト観光している気分も味わえるのだ。
正直、テレビシリーズや原作にこだわる気持ちは皆無。ゴジラに色んなバージョンがあったり、アメコミヒーローに色んなバージョンがあったりするのと同じ、くらいに鷹揚に構える心持ち。
むしろ、ポアロもルパンやホームズみたいに知的財産となったことを喜ぶ方がファンとして正しい姿勢なんじゃないかなぁ。「ポアロとか古いし、もう映画作らなくて良いよね」ってなる方がよっぽど淋しいし、アガサ・クリスティだって作品やキャラクターが忘れ去られて行く方が残念じゃん。
今のところは第4作目のニュースは無いが、是非とも体力の続く限りポアロを演じ、ポアロを撮り続けて欲しい。
ただの探偵ではなく、1人の人間として成立している「エルキュール・ポアロ」を通して、感慨に耽りたいのだ。あと、次にどこに行くのかが単純に楽しみ、というのも大いにある。
ミステリーの枠を超えた人間ドラマが観られる、大好きシリーズだ。