「78年版と比べると完敗」ナイル殺人事件 熱帯雨林さんの映画レビュー(感想・評価)
78年版と比べると完敗
78年版は、金持ちの女友達の持つ全財産目当てで計画を立てた女とそれに引きずられる形の男が従で登場していたのに比べて、こちらは、主犯が男ということらしい。女は金はどうでも良く、愛するその男に従っているみたいな設定。またリネットも、こちらは心優しく、さらに他人の言葉にも左右される金持ちなのに比べると、以前のものは、負けん気の強い金持ちで欲しいものは強引に手に入れる周りに厳しい女、敵しか居ない女。その恨みを持つ全員と横領弁護士が、新婚旅行中ならリネットもスキを見せるはずとエジプトにそれぞれの理由で引き寄せられていたという、78年版のほうが小説を踏襲しており、また親友だった女同士の争いにしたので忠実。あと、ウエディングベルが鳴ったあとに出てくる、サイモンの結婚相手がリネットだったというサプライズも秀逸だった。
映像については、78年版は全編エジプトロケーションで撮影されており、アブシンベル神殿・カルナック神殿・オールドカタラクトホテルなど美しいエジプトの実際ロケで観光気分にも十分応えている。画面からエジプトの昼間の暑さも感じられたほど。CG技術がなかったのがかえって良さを出している。でも今回のはCG多用で費用を抑えたかったらしい。しかし、それがCGなのが丸わかり。アブシンベル神殿・空からのピラミッド・カタラクトホテルの出来がすべてチャチ。あんなのでOK出すなよ。特にカタラクトホテルは明らかにエジプトとは別の建築様式じゃないか。インドからのワープなのか。
ポアロによる解決も、なぜ犯人特定に至ったのかが今回のものは説明されず。絵の具が色褪せるというのからどうして犯人特定に至ったかわかった観客は居るのか?はしょり過ぎ。78年版はマニキュアやショールの発見が犯人特定の手がかりになったことが説明され親切だったわ。また78年版は乗船客ほぼ全員がどうやって犯行できたかの仮説を映像にして見せたのに、こちらは真犯人のものの再現以外はポアロの言葉のみの説明でわかりにくい。さらに第2、3の殺人がなぜ起こったかのところも不親切。一度共犯者二人きりにしたことや、隣室に居た共犯女に聞こえるよう大声を張り上げて目撃者が居たことを知らせようとしたのが観客に伝わってこない。全体にトリック説明が雑すぎて、親友同士の再会の時から進行していた、計算され尽くした狡猾な計画的殺人の話が台無し。殺人を偶然思いついたのでなく、自分の恋人と金持ち女とを一旦結婚させるための、懐かしい再会自体からして殺人計画の一部だったことがわからんだろう、あれじゃ。単なるアリバイ崩し映画にしてしまって、クリスティーが怒るぞ。
ところで、最近の映画はまあ見ている方だと思うが、知っている俳優女優がケネスブラナーとガルギャドットだけ。オールスターキャストだった以前のものと比べて寂しい。以上のいろいろな理由から、完全に78年版の勝ち。どこかの映画館で前のやつ再上映してくれないかな。中途半端な映画を観てしまったので、かえって78年版の上映を渇望。
最初の10分くらい、別の映画を上映する番号の部屋に間違って入ってしまったかと思ってしまった。ポアロが口ひげをはやした理由、要る?なにかの伏線になるのかと思ってしまったわ。ポアロにも好きだった女性が居ましたというのが、ほぼ何の役にも立ってない。あと、最後の、エジプト旅行から6ヶ月後のロンドンの場面は何のために加えられたのか?意味、わからん。ちなみにクリスティーの造ったポアロの人物像は、定年退職した元警察署長で第一次大戦戦火のベルギーから「逃れ」、イギリスに「疎開して来て」そのまま住みついたという設定。ベルギー兵士として徴兵されたことも過去に農民だったこともなく、行ったことのない戦場で顔に傷も受けてない。おい、ケネスブラナー、目立ちたいのか知らんが、自己愛が過ぎる。