「卓越したポアロの切れ味に震撼する」ナイル殺人事件 猿田猿太郎さんの映画レビュー(感想・評価)
卓越したポアロの切れ味に震撼する
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最初、戦場に立つ若き日のポアロの姿から始まるのですが、はて、何故そこからなのか? それは物語の終盤に実感しました。果たして、如何に優れた推理を持ち合わせていたからと云って、生死を別ける作戦行動を上官に向かって進言できるものだろうか。しかも農家の出身で? 銃を構え敵に向かうのが勇者ならば、灰色の脳細胞をフル回転させ、犯人の心理を読み解き、殺人の犯行を指摘するのもまた戦士の凄み。例え相手にどれほど憎まれようとも確信を持って相手に詰め寄るポアロの姿に、震え上がるほどの切れ味を感じました。しかも犯人の真相――ああ、冒頭で、かつてのポアロの恋人が云っていたではないか。愛があれば全てを超えられると。犯人は一貫して愛を貫き、それ故に、恐るべき計画を立てたのだと。映画の冒頭で全てを描く、映画の基本を踏み固められた、見事な映画だったと思います。
実のところ、原作は読んでないし、旧作の映画も観ていませんが、それが幸いだったかも知れません。今作を十二分に楽しむことが出来ました。アガサ・クリスティーの作品はセレブ系の人々がおりなす殺人事件と知っていましたが、「お金を持っていると本当の友情は得られない(だったかな)」という台詞に、「それほど華やかな世界じゃ無いんだよ」と語られているような気がしてなりません。美しいナイル川の自然の中で、猛獣が噛み合う凄まじいシーンが交えられているのが印象的でした。
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