「日常の小さな行動の積み重ねが人格をつくる」ラスト・クリスマス おじゃるさんの映画レビュー(感想・評価)
日常の小さな行動の積み重ねが人格をつくる
ノーマークの作品ながら、評判が良さそうだったし、とりあえず季節ものだからという軽い気持ちで鑑賞してきましたが、評判どおりとてもよい作品でした。
序盤は、会話に出てくる名前が多く、ケイトの人物背景も説明が少なく、やや混乱ぎみでした。主要人物が出揃ったところで、やっと頭の整理できてきましたが、そこまでがわりと長かったです。その間、ケイトの奔放な生活ぶりが描かれ、彼女に悪気がないのはわかりますが、周囲への配慮に欠ける振る舞いは、見ていて気分のいいものではなかったです。そのため、なかなか共感的に彼女を見ることもできなかったし、かわいいとも思えませんでした。
そんな彼女が、トムと出会い、彼との距離が縮まり、彼の言葉に影響を受けると、その行動に少しずつ変化が表れます。関心をもって周囲を見つめ、相手の心を慮り、素直な気持ちで接するようになってきます。シェルター前で手作り看板を携えて一人歌う姿、バスの車内でユーゴスラビア人に声をかける姿には、熱いものがこみ上げてきました。そんなケイトが、それまでとは打って変わって俄然キュートに見えてきました。
では、なぜトムの言葉がこんなにケイトに響いたのか。その答えは終盤で明らかになりますが、前半からのトムのもの言いたげな表情や、中盤でのケイトのカミングアウトで、大方の察しはついてしまいます。それでも、クライマックスのどんでん返しからの回想シーンが、実に切なく、鮮やかに描かれ、目頭が熱くなりました。
本作は、ケイトとトムのラブストーリーかと思いきや、物語のメインはそこではありませんでした。ケイトの変容を通して、人種差別、格差社会、同性愛、家族のあり方などの世の中の様々な問題は、私たち一人一人の心のありようでいくらでも変えていくことができるのだ、と訴えかけてくるようでした。寒い冬に、心をポカポカと温めてくれる、よい作品に出会えました。