劇場公開日 2019年12月20日

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「自分を大切に」テッド・バンディ KinAさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5自分を大切に

2019年12月28日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

テッド・バンディについて、彼が何をしたのか、どんな結果になったのか、サラッと把握している状態での鑑賞。

把握しているのに、最後の最後まで惑わされ迷わされた。
殺人鬼の遣り口を描いた実録サスペンススリラーを観るつもりでいたけれど、彼の騒動に巻き込まれ振り回されながら、「やったのか、やってないのか」と苦悩させられる作品だった。

テッド・バンディは徹底的に否定する。
真剣に自分を弁護し、真摯に無実を訴え、本気で逃げようとし、「パピヨン」を愛読する。
何が起きたのかきちんと説明されないまま彼が逮捕され、あれよあれよという間に疑いの中身が濃くなっていく様を観ていると、「本当にやってないんじゃないか」と思えてくる。彼のまっすぐな視線も相まって。

俯瞰の描き方と構成が秀逸。
殺人や誘拐の直接的シーンも決定的な証拠も画面になかなか映らないので、どこに真実があるのか分からない。
どんどん進む裁判劇、追い詰められてもなお抵抗するテッド、確実に病んでいく周りの人間の描写は、ある意味殺人鬼の所業よりもスリリングに感じた。
忠実かつドラマチックに再現したシーンの連続にも痺れた。

テッドを愛しテッドに愛された女、リズになったような気がしてくる。
信じればいいのか、疑えばいいのか。
彼女だからこそ感じるとてつもない苦悩とやり切れないジレンマを全身で受けて、本当に辛くなった。
「愛してるから問題なのよ」というセリフが胸を突いた。
愛し合った時間は本物だったのか、自分もいつかは殺されていたのか、子供はどう思うのか。私ならどうしようか。

裁判を傍聴にくる民衆の一人になったような気がしてくる。
一連の事件も裁判劇もかなりエンタメ的で、世間が面白がるのもわかるじゃない。
清廉潔白で平凡な人よりも後ろ暗いモノを背負った怪しい魅力のある人に性的魅力を感じてしまうじゃない。
テッドに群がる人々と映しだすテレビカメラが、スクリーンにくぎ付けになっている私と重なった。

最後にぶつけられる静かな衝撃。むせ返るような切なさと仄かな希望を感じさせるラスト。
頭が熱くなった。
本当に本当に本当に、見せ方が上手すぎる。
焦らしに焦らした末の答え。さりげなく鳴る音に鳥肌。

テッド・バンディというシリアルキラーをストレートに見せることはせず、彼のしたことによって苦しむ人や振り回される世間を中心に見せた作品だった。
しかしそこを描くことで、間接的にテッド・バンディの異常性も浮き彫りになってくる。
恐ろしい人だ、と心底思う。

キャロルがテッドとリズを振り返るシーンがとても印象的。
尋常じゃない振り返り方だよねあれ。執着の強さをあのぼやけた一瞬の中で表現する巧さ。好きだな。

KinA