「償うことの意味。7つの贈り物のよう。」きみの瞳(め)が問いかけている movie mammaさんの映画レビュー(感想・評価)
償うことの意味。7つの贈り物のよう。
7つの贈り物のような作品だが、もっと扱う業が深い。でも、本作は横浜流星が最後まで肉体を保てるのが救い。
主人公は、やりたくて悪くいたのではなく、悪縁を切れない生い立ちだったからで、元々優しい性格だからより辛い。
本作もまた、横浜流星が暗い状態からスタートする。
赤ちゃんの頃に母親が海で無理心中し、自分だけ生き残って養護院で育った、横浜流星演じる塁。
しかし、ヤクザ入りした養護院時代の悪い仲間の用心棒として組織の裏切り者に暴力を振るっていたところ、裏切り者は自分でガソリンをかぶり火をつけて転落。そこに警察が来て3年5ヶ月の懲役を受け出所した。
捕まる前は、ボクサーとして育成して貰っていた最中、裏でヤクザの賭けボクシングにも選手として手を出してしまっていた。
出所後、お酒の配達の手伝いをしながら、駐車場の管理人をするアルバイト生活でなけなしの暮らし。
そこに、前管理人のおじさんと管理人室で週1回テレビを見るために訪ねて来ていた盲目の女性、あかりがやって来る。
見えないあかりが感じ取るほど、疲れた空気を纏っていた塁だが、あかりが助けを必要な場面に度々出くわすうちに、あかりを幸せにしたいとの思いから生き方が変わって来る。
アルバイトを掛け持ちし、出所後お世話になったジムに謝罪に行った時はもうするつもりがなかったボクシングを再開してタイトルマッチの賞金を狙い、あかりの助けになればと犬を飼い、毎日あかりの家に帰る。
目の見えないあかりもまた、運転中に上記ガソリン男が火だるまでビルから落下して来たところに目を奪われ、後ろに乗せていた両親と視力を亡くした女性。
それでも懸命に日々手探りで料理し身支度を整えて出勤し生活する毎日を過ごしていた。
おじさんだと思って出会った塁が実は若いと後から知り、上司に襲われそうなところを訪ねて来た塁に守って貰ったり、塁あっての生活に変わっていく。
塁もあかりもお互いが生き甲斐の愛に溢れた生活となり、ボクシングの賞金を手にしたら結婚やあかりが失明前に学んでいた美術の小さなお店を持とうとも話して、前を向いていた。
しかし、塁は自分の起こした事件で追い詰めた相手がガソリンを被り目の前で自殺した様子を見たがために、あかりが失明したと気付く。
刑務所では刑を償ったが「償う」とはなんなのか。
養護院でのシスターの「できることをすれば良い」と聞いた時、断ち切ったはずのヤクザからまた賭けボクシングの誘いが来て、表のボクシングより賞金が多額なので、網膜剥離も新たに起こしているあかりが視力回復手術を受けられるよう、一度だけの条件で誘いを受けてしまう。身元も捨て、死ぬ覚悟で挑み外国人相手に勝利はしたが、組の上位層の中では勝ってはまずかった試合。約束通り賞金は入り、あかりは手術を受けられるが、塁は報復を受けて刺されてしまった。
手術後、累が帰宅しないのであかりは立ち退きにギリギリまで応じずに待ち続けていたが、塁は別名で後遺症患者になっていた。
あかりは陶芸でお店を出し、店名は累の洗礼名アントニオ。休みの日は塁のケアを通して覚えた理学療法マッサージで病院にボランティアに行く日々。
ある日、見えるようになったあかりは、患者として塁のマッサージをするが、累が一言も話さないし名前も変わっているので、身体に触った感覚であれ?とかすかに塁の感触に気付くが、わからなかった。
もう陰であかりを資金支援し身を引く気持ちでいた塁は、あかりと偶然再会できたのに、名乗れない。
それでもあかりはまた、塁にリハビリを頑張る希望をくれた。冬になり、退院して松葉杖まで回復してお店を訪ねる塁。あかりはお昼を買いに出ていてすれ違いだったが、愛犬すけが塁を追って走り出す。
そこでもあかりは再会した塁に、前に病院でマッサージした人としか気付かなかったが、お店に置いていた、塁の育った養護院から届いたオルゴールに累が涙していたと聞き、やっと気付き後を追うも会えない。
前に累が連れて来てくれた、母が心中した海をあかりが訪ねてみると、そこで心中をはかる塁がいた。
やっっと再会でき、「ただいま」「おかえり」を交わす2人。
横浜流星がとても自然に、
・人として迷いがありながら、居場所がないので不良行為を重ねる
・その罪で、相手の家族や目撃者など、派生する犠牲者とその事情心情を本当の意味で理解した時、どうすれば本当の意味で償えるのか、苛まれる
・相手の幸せを心から願う時、死の覚悟もでき、幸せになってもらう為に、身を引く
・明るい居場所を求めながらも、そんな事を求める資格がないと律する
それぞれの重く難しい感情を表情で伝えて来る。
鑑賞中一度も、演技上手いな〜とは思わなかった。
元々塁にしか見えないから。
こんな素晴らしい横浜流星が、
一度足を突っ込んだ反社から命がけでも足を洗えるかの恐怖を伝えてくれるし、心の底から足を洗うきっかけになるあかりとの出会いの後、目が見えないため嗅覚が敏感なあかりの指摘で、一生懸命足を洗って、真っ白なスニーカーに履き替えている。
本当に足を洗い、新しい人生を生き直そうとしている様子が映像描写もされていて、良い演出だなと思った。
塁は元々、悪い事に罪悪感を感じるし、
出所後も遺族や迷惑をかけたボクシング場に謝罪に行っている。あかりに過去を聞かれ咄嗟にあかりに意地悪を言ってしまった時も、後から謝っている。
そういう素直な性格にも関わらず、もうボクシングとは距離を置きたいと思っていたにも関わらず、ボクシングが身を助けあかりを助け、収入源にもなりながら、ヤクザとの関わりを断てない理由にもなる。
それでも、養護院のシスターが育ててくれた素直さが、人生を導いてくれたと思うし、同じように素直なあかりとうまくいったし、あかりが塁が振り込んでくれたお金で陶芸のお店を出しつつ塁のために学んだマッサージも続けてボランティアをしていたからこそ、あかりとまた出会うことができた。
偶然また会えたあかりに、声も出せず、気づいて貰えないけれどマッサージされるシーンが、途轍もなく切ない。こんなことになった原因も全て自分で、因果応報が辛すぎる。
養護院のシスター吹雪ジュンが神様の使いのように、塁を助けていく。
辛い時に温かさをくれる場でもあり、塁の話を聞いてあかりへ伝わる場にもなり、シスターが大切な人にとシュシュをくれて素直に届けに行ったからあかりが襲われるところを助けることができ、そのシュシュをつけてボランティアするあかりと、シスターが送ってくれたオルゴールが繋いでくれた。
救いようのない絶望的な状況でも、助けを求めて素直にまっすぐにいれば、業を心から反省し償えた時、神様が巡り合わせを起こしてくれるのかな?
恋愛系の作品で、一番好きな作品。