「夢から醒め、この過酷な現実と戦え。」劇場版「鬼滅の刃」無限列車編 ふみくんさんの映画レビュー(感想・評価)
夢から醒め、この過酷な現実と戦え。
善の理念(イデア)、永遠、正義。これらを透き通すのが炭治郎の心である。不幸な現実の否定性に対峙し、それと戦う炭治郎。人々はそれに共感し、賛同しているのであろう。現実が否定的なものであるということは、20世紀から今日にかけて、ほとんど常識と化したことであろう。しかし、これまではそうした現実から身を逸らすか、否定性を否定性とだけ描写して終わっていたように思う。 夢から醒め、この過酷な現実と戦え。そして運命は勇者に微笑むのだ。
ー 夢が理想的な平和である ー この考え方は、一見古いように思うが、しかし、夢が無意識からのぼるある種の表象像に過ぎないということも、現代人は精確に把握しているようである。
これまでは、(まさしく敵の魘夢ように)現実を悪夢と混同していた。(魘夢「悪夢だ…」)本当は現実はより射程が広く、夢は表象の一部分である。フロイトによれば夢は、無意識から構築されたものである。無意識は現実と同じように射程が広い。炭治郎の無意識は、特に、永遠を見渡し、優しさと温かさに包まれていた。これこそが現代の人々が、本当の意味で理想化していくべき共通観念である。
他方で、端役の夢は、対照的に、単なる夢想に終わっていたり(善逸)、現実と変わらない混沌を描いたものだったり(伊之助)、過去の記憶を蘇らせるものであった(杏寿郎)。これらの夢も、現代人の一側面を反映したものであり、興味深いものであった。自分がそれらのどれに当てはまるかで、自分の今日のあり方を見つめ直すことは出来るかもしれない。(2021年1月30日)
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