「どこまでも真っ直ぐで清らかな心」劇場版「鬼滅の刃」無限列車編 ヤスリンさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5どこまでも真っ直ぐで清らかな心

2021年1月6日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 今や社会現象になっている鬼滅ブーム。単行本は最終刊が300万部越え!TVアニメも大ヒットで劇場版も先日320億円突破で千と千尋を抜いて歴代一位!連載第1話から読んでいてTVアニメもリアルタイムで全話観たファンとしては嬉しい限り。というわけで劇場で観てきた感想を書いていきます。

 冒頭から美しい森の風景。UFOTABLEは京都アニメーションと並ぶ日本のアニメーション業界でハイクォリティな映像を作る会社。最初からその実力を遺憾なく発揮しています。物語は鬼殺隊新人隊員の炭治郎・善逸・伊之助が命令を受けて鬼が巣くうという噂の無限列車に乗り込むところから始まります。そこで先に乗り込んでいた炎柱の煉獄杏寿郎と合流して鬼退治に挑むという物語。

 映像は本当に素晴らしい!ここ数年の日本のアニメは完全に一つの形式を作りましたね。それは2Dと3Dの融合。手書きの2Dキャラの暖かい動きを生かしつつ、背景に3Dを効果的に利用して、よりハイクオリティな映像に仕上げるという方法です。天気の子しかりヴァイオレット・エヴァーガーデンしかり、そしてこの劇場版鬼滅の刃無限列車編しかり。どれも海外の3Dだけの冷たいヌルヌルした映像では決して描けない日本ならではの美しいアニメーション映像を作り上げています。これは本当に素晴らしいです。この作品でも何気ないシーンにこうした演出がふんだんに使われていて、それがごく自然に見えているのが良いです。触手が伸びるシーンも凄いですが、むしろ炭治郎の夢の中で描かれた実家の風景こそがその真骨頂だったのではないかと思ってしまいました。

 演出で感心するのがテンポの良さ。ゆったりした導入部からギャグを交えつつ話が進み、そこから夢の世界へ移る展開が非常に上手く構成されていて観る者を飽きさせません。そして夢の世界から脱出した炭治郎と魘夢との戦い、さらに後から目覚めた禰豆子・伊之助・善逸・煉獄の戦い、そしてクライマックスの煉獄と上弦3席の鬼との戦い、息をつかせぬテンポにあっという間に2時間が過ぎてしまいました。余分なところを一切廃して美味しいところを全て詰め込んだ内容の濃い作品だと思います。

 さて、この作品が大ヒットした要因は様々有ると思うのですが、僕は主人公や煉獄の「どこまでも真っ直ぐで清らかな心」にあると思ってます。炭治郎は鬼に家族を惨殺されて、妹の禰豆子も鬼にされて、鬼に対して大きな憎しみを抱いているはずです。しかし彼はそんな鬼に対しても憐憫の情を抱き、最後の情けを掛けるのです。同僚に対しても同様で、いつも突っかかってくる伊之助のわがままも全部受け止め、仲間をその優しさで包んでやります。何という大きさ、なんという優しさなのでしょう。そして今作品のもう一人の主人公煉獄杏寿郎も同様です。強き者は弱き者を守る責務がある、そのために生を受けたのだと母から言われ、その言葉を守るためには自分の命も厭わない生き方。敵から鬼にならないか?と甘い言葉を掛けられても迷うことなく拒否をする真っ直ぐな正義。この作品にはこうした清らかで真っ直ぐな心が一本通っているのです。

 こうした主人公達の真っ直ぐさが今の混迷した世の中で光となって、観る者を魅了しているのでしょう。自分たちの利権のためなら平気で悪事に手を染める政治家や財界人、弱い者を助けようとせずに自分たちばかりがいい思いを求める一部の豊かな者達。そうした輩に嫌気がさしている現代人にとって、炭治郎や煉獄の愚直で真っ直ぐな生き方はまぶしく美しく見えるのです。

 クライマックスでその真っ直ぐさを貫くために戦う煉獄杏寿郎。ラストシーンでは涙が止まりませんでした。いやあ、コロナ禍で席が一つ跳び毎で良かった。でないと泣いているのが横の人に見えちゃいますから。(苦笑)

 本当ならこの作品には5点満点を付けたかったのですが、一つだけ残念だったのが導入部の分かりづらさ。ファンの僕は設定からストーリーまで全て入っているので大丈夫ですが、初見の人には少々分かりづらかったのではないでしょうか?TV版からの劇場版という作品にままあるのですが、そうした舞台説明を省いて直接TVの続きとして話を展開してしまいがち。狭いファン向けの作品ならそれでもいいですが、ここまで社会現象になっている大ヒット作品なのにそこを省くのはいかがなものかと。せめて冒頭10分位にこれまでの話の流れをダイジェストで入れた方が良かったのではと思ってしまいました。その分を0.5点引いて4.5点ということで。でも、個人的には満点以上の作品でした!(*^_^*)

ヤスリン