「誇るべき映画」劇場版「鬼滅の刃」無限列車編 アラカンさんの映画レビュー(感想・評価)
誇るべき映画
予習が終わったので、ようやく鑑賞した。この映画を楽しむためには、予習が必須である。登場人物の説明などは全くなく、この世界のルールやこれまでの物語も一切語られていないからである。アニメだと 26 話見る必要があるので結構大変だが、コミックスなら6巻まで読めば良いのでお勧めである。その程度の手間を惜しんで、話題になってるから見に行くという安易なことでは、折角の傑作を全く楽しめないに決まっているのである。
アニメは原作コミックスに忠実に作られているので、内容はどちらも同一である。その忠実ぶりは徹底していて、台詞まで全く同一であり、追加も削除もない。台詞に非常に魅力のあるこの作品では、それが何より有り難い。劇場版映画も全く同様であった。
この作品を見る気になったのは、 20 代の娘がどっぷりハマっていて、共通の話題を持とうと思ったためであるが、一緒に見ていたアニメの第1話の冨岡義勇の台詞「生殺与奪の権を他人に握らせるな!」が非常にツボったために、コミックスを読み始めたのである。何という素晴らしい台詞であろうか。「殺すくらいなら殺されよう」とかポスターに書いている悪質な政党にそのまま投げ付けてやりたいほどである。
劇場版にも震えるほど素晴らしい台詞が沢山あるが、中でも、煉獄杏寿郎の母親が語る「生まれついて人より多くの才に恵まれた者は」で始まる台詞は、義務教育の教科書に掲載すべき価値のあるものであると思った。この台詞で我が身を振り返れば、自分が他人のためにどれほどのことをしているだろうという反省しきりであった。この作品を今の日本で多くの若者が熱心に見ているということには、非常に頼もしいという思いを禁じ得ない。
テレビアニメとの一番の違いは背景や風景画のクォリティが格段に上がっていることである。初めはキャラクターの絵柄とのギャップが気になったが、次第に慣れた。炭治郎の心の中を描いたシーンの美しさには度肝を抜かれた。敵の鬼にまで同情を寄せる炭治郎の精神性は、古来より日本の武士の価値観そのものであり、大東亜戦争中の日本軍兵士にまで継承されたものに他ならない。
無限列車編を映画化したのは大変な好判断だったと思う。各人の夢を見せることで各人物の人柄や価値観を示すことができ、それぞれの持つしがらみやモチベーションなど、非常に深く描くことができたからである。これによって、各人物のかけがえのなさが感じられ、喪失感なども大変なものになる。
人物の思いに寄り添い、包み込むような音楽がまた素晴らしかった。特に、エンディングでテレビアニメのテーマ曲が流れて来たら、かなり感動を損なってしまう恐れがあったが、この映画のために書き下ろされた「炎」は、観客を慰撫し、感動を高めてくれた。大したものだと思った。
劇場を出て、夕食を食べようとはま寿司に入ったところ、タッチパネルの応答する音声に非常に聞き覚えがあると思ったら、紛れもなく炭治郎の声であった。思わぬサプライズに非常に嬉しくなった。
(映像5+脚本5+役者5+音楽5+演出5)×4= 100 点。