「原作の世界観を尊重しつつ上位互換したアニメ映画」劇場版「鬼滅の刃」無限列車編 :Pさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5原作の世界観を尊重しつつ上位互換したアニメ映画

2020年10月30日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

アニメ化前からの原作ファンです。特に無限列車編は思い入れがありましたが、最高のクオリティで映像化されたことに感動しました。

ストーリーは原作に忠実なので、話の内容云々ではなく、漫画のアニメ映画化としてどうなのか、という視点でレビューを書きます。

《良かったところ》

・アニメーションの美しさと躍動感は圧巻。
作画は常に安定していて背景などの描き込みやCGもすごい。文句なしの映像美。アクションシーンのカメラワークや動静の間の取り方もセンスがあり緊張感が持続する、飽きさせない演出。またキャラクターたちのポージングがいちいち格好良い。映画で印象に残っている画や構図と同じシーンの原作を見返してみても、全然違う、もしくは原作に存在していないので驚く。一枚一枚の画を格好良く魅せることへのufotableのこだわりを感じました。

・声優陣、特に鬼二人の演技が素晴らしい。
猗窩座に関しては、石田彰さんの声はイメージと違ったのですが、演技がうますぎて観ているうちにどんどん説得力が出てきて、イメージ通りをぶつけられるよりも更に良かったです。要所要所で本当にこれ以上ないってくらいの感情表現がされてました。魘夢の平川大輔さんも、独白が多いぶん単調な演技だと相当飽きそうな難しい役ですが、演技のうまさでカバーしてました。「強制昏倒睡眠・眼」という技を出す時、こんなわけのわからない言いづらそうな技名なのに、声色、抑揚ともに魘夢のミステリアスさがよく表れていて驚きました。

・作中曲もエンディングも良い。
特に煉獄さんvs 猗窩座では、個人的にはアニメ映画っぽくないBGMと感じて意外だったのですが、見事にハマっていました。煉獄さんより猗窩座のイメージに寄せた、剣術より武闘って感じの音楽だと思いますが、それも良かった。猗窩座の石田彰さんの声しかり、意外性に説得力がプラスされると、新しい感覚を得られるというか、より興味深く感じられました。エンディングの「炎」も映画の感動を更に盛り上げ、かつ余韻に浸らせてくれる文句なしの主題歌でした。

《あまり良くないような気がしたところ》

・原作ファン以外に不親切。
この劇場版はあくまで「鬼滅の刃」というジャンルの一端で、完全にアニメ版の続きであり、また原作に忠実なので、純粋に2時間で完結する「映画」を観に来た人には内容が薄く感じられたり、前半の独白や説明の多さにだれたり、また突然現れた猗窩座についていけなかったりすると思う。星4.5なのはそのためです。ただ原作ファンからすると、2時間映画として面白くする為に原作にない不必要なエピソードを入れられたり、また端折られたりする方がよっぽど興醒めするので、映画単体としての纏まりよりも、原作に忠実にすることを優先してくれてありがたかった。(そして多分、映画を見てハマらなかった人は、原作を読んでもやはり楽しめないと思います。ストーリーも台詞もほぼ全く同じなので)
けれども映画単体で完結してない作品が日本の興収歴代1位を取ると「映画とは…」という疑問が出てくるので、鬼滅ファンでありながらも千と千尋の記録は抜かないで欲しいなあ、という気持ち。

・ギャグシーンに関しては原作の方が面白い。
大体の漫画のアニメ化でそうな気もするけれど、原作独特の笑いのテンポ感が再現されてないような気がする。原作読んでてクスッとするシーンは多々あるけれど映画館で一回も笑いませんでした。

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一番好きな煉獄さんの話が、こんなに何もかもハイクオリティで映像化されたこと、本当にufotableさんに感謝しかありません。ハマらない人はハマらないだろうけど、原作も元は人を選ぶと言われていた作品でした。原作に忠実でいてくれてありがとう。

:P