「人の赤裸々な部分と逞しくしたたかな部分を覗き観て、目が離せない様な作品です。」はるヲうるひと 松王○さんの映画レビュー(感想・評価)
人の赤裸々な部分と逞しくしたたかな部分を覗き観て、目が離せない様な作品です。
以前から気になっていた作品ですが、なかなかタイミングが合わず、やっと観賞しました。
で、感想はと言うと、重い。暗い。やるせない。でもなんか後味が引く感じで気になる。
そんな感じでしょうか。
原作は佐藤二郎さんが主宰する演劇ユニット「ちからわざ」で上演された脚本。
演劇戯曲らしい毒と淫靡さ、アングラ感があり、観る側の観賞意欲をザワザワとくすぐる感じw
怖いもの見たさと言うか、見てはいけない物を覗き見る様な後ろめたさがそそるんですよねw
そこに確かな実力のキャスト陣で固められていて山田孝之さん、仲里依紗さん、佐藤二朗さんを軸に坂井真紀さん、今藤洋子さん、笹野鈴々音さん、駒林怜さんが脇を固める。
山田孝之さんと佐藤二朗さんが主演と言うだけで重厚感がありあり。
特に佐藤二朗さんの狂気とがヤバい。普段は独特なテンポとユーモラスで観る側を惹きつける魅力を醸し出しておられますが、ひっくり返すとユーモラスと背中合わせで狂気が垣間見えるのですよね。
俳優・佐藤二朗の確かな実力と狂気と狂喜にゾクっとします。
島での原発建設を反対しながらも和解金の金額を釣り上げる事で反対運動をする島の住人達。
産業も観光も乏しく、高齢化が進み、発展が望めない島は公然と売春が行われ、様々な「置き屋」が存在する。
そんな中で大きく小さくもない置き屋「かげろう」に籍を置く個性的な遊女たち。
得太は遊女たちの様々な雑用をこなす使用人。腹違いの兄の哲雄は粗暴な性格と暴力で店を仕切っている。妹のいぶきは長年の持病を患い床に伏してる。
そこに出入りする置き屋の客達との愛憎渦巻く人間ドラマ。
もうこれだけで面白い匂いがプンプンしますw
「架空の島の売春宿で、生きる手触りが掴めず、死んだ様に生きる者たちがそれでも生き抜こうともがく壮絶な闘いのおはなし」とあるが簡単に言うと本当にそう。
国内には公に出来ないが売春で生計を立てている島があると言うのは、都市伝説の如く誠しなやかに噂されている。ことの真意はさておき、それが過去の事なのか、現在も続くのかは置いといても様々な色街文化は確かに存在し、未だに続く事なので、それを必要以上におおっぴらにする事はないが、だからと言って無かったことの様に葬る必要性もない。
こういった色街文化のお話は売春について云々よりもそこにいる人達による人間ドラマが抜群面白いんですよね。
なのでいろんな遊女達のお話が秀逸。
坂井真紀さん演じる峯は「かげろう」で最も古株の遊女で姉御肌。
今藤洋子さん演じる純子はムードメーカーでトラブルメーカー。
笹野鈴々音さん演じるりりは「かげろう」の癒し系。
駒林怜さん演じるさつきは内気な「かげろう」の新人遊女。
もうこれだけでお腹いっぱいw
それぞれに味と癖のある感じで見せ場も程よくあり、面白いんですよね。
個人的にはりりが良い感じ。
難点は置き屋の遊女とのお話よりも得太、いぶき、哲雄のお話が中心な為、置き屋のお話から少し逸れてしまう感じがする。
兄弟の愛憎渦巻く愛憎劇がベースではあるが置き屋で行われる人間ドラマは味付け程度になってる。
いぶきが遊女として客を取っていたら違う感じなんでしょうが、ちょっと勿体無い感じがします。
また、中盤までの浜辺の過疎り方に比べて、ラストのりりの結婚式での映っていた浜辺に大きなマンションが建っていたり、ちょっと観光感があったりしたのは気になりました。
でも、ラストのさつきの締めはなんか良いんですよね。
置き屋で働く遊女たちにはそれぞれの理由があって、そこをあえて聞かないのが大人の遊び方。
その遊女たちの職場としての置き屋で働く者たちにも様々な理由があり、それを生業としないと生計が立たないのもいろんな理由があるから。
江戸時代に遊女と遊ぶ者、また置き屋の主人は「仁・義・礼・智・忠・信・孝・悌 (てい) 」の人として大事な八つの徳目の全てを失った者、もしくは失わないとやっていけないとの事から亡八と言われていたが、現代ではそこまで考える者はいなくても、その根底や真意に触れるのならば、そこまでの覚悟が必要なのかも知れない。
哲雄を様々な理由で得太を忌み嫌うのは両親の事だけでなく、自身を成り立たせ、また嫌悪する置き屋稼業との背中合わせからも来るのかも知れない。
いろんな人間模様が交錯し、反発しながらも自己嫌悪し、肩を寄せ合い、傷を嘗めあう。
人の赤裸々な部分を覗き観ながら、何処か寂しげで悲しく、ユーモラスに身体を張って生きている。
得太が「誰か助けてくれよ」と発した台詞は胸にキリキリ突き刺さりますが、皆余裕がある訳じゃない。
他人を嘲笑いながらもそれを踏み台にして生きていこうとするしたたかさと強さを教えてくれている様に感じます。
決して万人受けの作品ではありませんが、いろんな感情が渦巻き、ちょっと目が離し難い不思議な作品です。