「タコ社長」はるヲうるひと サプライズさんの映画レビュー(感想・評価)
タコ社長
佐藤二朗が監督・脚本を務め、山田孝之を主演に迎えた本作。予告も面白そうですし、そこそこ期待して鑑賞。俳優が監督を行う映画で成功となるか...。
これはこれは、めちゃくちゃ面白い。
面白いと言っていいのか分からないが、とにかく凄かった。胸が張り裂けそうなくらい衝撃作だった。
とある島に暮らすある売春宿の3兄妹。長男の哲雄(佐藤二朗)は皆を下僕のように扱う凶悪な性格で恐れられ、次男の得太(山田孝之)は売春宿のオーナーとして女たちをまとめながら兄に搾取され、長女のいぶき(仲里依紗)長年患っている病気に苦しんでいた。
演者の凄まじさが刺さる、刺さる。
山田孝之の声を荒らげながら自分の腕で泣き叫ぶシーンが多くあるが、その演技がとんでもないほど破壊力があって本当に悲しくなる。去年はシングルファーザーやったり、門番やったりしてた人とは思えない。どこまで演技力の幅があるのか。そして、なぜ我々は山田孝之という男に惚れてしまうのだろうか。
そして、佐藤二朗までも圧巻。
監督・脚本を行いながら凶悪な兄を演じる鬼才さ。
今まで見てきた福田組の佐藤二朗とは全く違う。彼に対して笑を零すことは許されないように感じる。
特に、予告でもある「クソが!クソが!」のシーンはもう恐ろしすぎる。近づいてはいけない悪男というイメージが登場と同時に植え付けられるのはかつてなかった。
他にも長女を演じた仲里依紗、売春宿の4人の女やそこにやってくる客など全員心の底から演技をしている。
オンオフの切り替えが凄い。
とにかくこの映画、雰囲気が非常に良いので胸が苦しいのにずっと見ていられる。意外と笑えるシーンもあったりして、シンプルだけど落書きはクスッと笑えた。そんな平和はつかの間、一気に話が暗くなる。上げて下げる、という表現を非常に上手く使っており現実を叩きつけられ、ずっと重く苦しい映画よりも苦しい。
また、音楽が独特で良い。
軽快なリズムで金管楽器が鳴り響くあの音楽が、単体で聞いたら柔らかく優しいものに聞こえるはずなのに、この映画に合わせると何故か違う曲かのように思えてきて、どことなく恐怖を感じてしまう。この映画にピッタリで、音楽によって悲しさ息苦しさ憎らしさというのが語られていると思う。
そして、名言が多い。
Twitterで酔っ払いながら名言を呟く佐藤二朗ならではで、一つ一つの言葉がグッと胸に響く。「無理でも笑え」はラストにも共通しており、劇中にさりげなく出てくる「冷たいご飯」というのは愛をよく知らない彼らが唯一知る愛だと思った。暖かさは冷たさを知らない。冷たさは暖かさを知っている。深く、深く、考え深く、もう一度みたいなと思った。それと同時に舞台版も見てみたいなと思った。
ただ、余計な部分は多く見られる。
特にラスト15分は必要だっただろうか?
無理でも言いたかったのか知らないけど、わざとらしさを感じたしどうにか2つのシーンを生み出すために作った話としか思えなかった。それだったら、あんなな設定にしなくても良かったのでは?
あと、ストーリーも欠けている部分がいくつか。
もうちょっと長くして、余計な部分を排除してじっくり内容を説明して言ったらよりいい物になっていたはず。何故?という疑問が撤廃出来ない。
いやでも、すごく良かった。
見終わった直後はそうでもないのだが、見てからしばらく時間が経つにつれて色んな感情が湧き出て、何だか涙が出そうになった。胸が潰されそうで仕方ない。
タコ社長、まじでスゴいです!笑