「精密」ナイブズ・アウト 名探偵と刃の館の秘密 津次郎さんの映画レビュー(感想・評価)
精密
ナイフは複数形になったとき、FがVになる。あたまに発音しないKがある。──とは、むかし英語の授業で習った。だから何──。というか、それだけなんだが。
まったく、しつこいスターウォーズファンどもには、飽き飽きだね──と言ったかどうか知らないが、SW監督に抜擢され、佳作をつくったにもかかわらず、慮外の偏屈評価を浴びたライアンジョンソン監督が軌道修正した感──のある緻密なサスペンスだった。
SW最後のジェダイは、配役や筋書きのことから、次第に大きなアンチが形成され、監督批判にまで及ぶ、バッシング大会になっていた。SWには偏執がむらがる──ものだ。
それらを経て、SWを逃れ、SWで付いた虚聞をふりはらい、SW傾倒する映画ファンたちが、ぐうの音も出ないような映画をつくってやろう──そんな意気込みが、Knives Outには、すごくある。
まぶしいばかりのオールスター総出演だが、映画を特徴づけているのは、人物の鈍色の肌感だと思う。
一般に、メジャー映画では、俳優の顔にカメラが近寄るなら、それなりの修整がはいる。ものだと思う。
それが、化粧か脂粉か、あるいは編集時の後加工か、やりかたはいろいろあるのだろうが、ようするにすっぴんをアップにはしない──と思われる。
Knives Outでは、その処理を、ことごとく欠いている。
それぞれ、年齢なりのしわや、あばたや、経年変化の度合いを、そのまま見せている。それが、一族の強欲な人間性をあらわしているし、一方でマルタの善良な人間性もあらわしている。
ジェームズボンドのときは隙なくシェイプされているダニエルクレイグも、ここでは切れ者だけれど、陽性で鷹揚な探偵になっている。
スターを起用してはいるけれど、全員が、一般人の肌質を見せている。それが、かなり特徴的だった。
とはいえ、各々スターのきらめきを、隠しおおせてはいないところが映画の魅力になっている。
ジェイミーリーカーティスの白髪ショート(←すごくかっこいい)や、トニコレットの不満面に、持ち味があらわれていたし、とりわけ、すっぴんのマルタ役Ana de Armasの、好ましいナチュラルさを、あますところなく引き出していた、と思う。
マルタの出自は発言者によってエクアドル、パラグアイ、ウルグアイところころ変容する。一族は心がきれいで控えめなマルタに一定の親近をよせ、きみは家族だと言ったりしている──ものの、同世代のメグを除けば、その相関性には、金持ちが貧乏な第三者にみせる憐憫しかない。
概して、すじがきは犬神家の一族をほうふつとさせた。
映画は盛り沢山の伏線と布石、それらの回収の労作だった。
重厚な屋敷、みごとな調度、輪にディスプレイするナイフコレクション、ぎゅう詰めのプロット、おびただしい小道具、回想と述懐へのシームレスな編集、考え抜かれた台詞とキャラクタライズ・・・。まさにぐうの音も出ない、舌を巻く傑作だった。
M. Emmet Walshが出ていたので製作年度を二度見した。
またラストのSweet Virginiaが超なごめた。