劇場公開日 2020年2月1日

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淪落の人 : 映画評論・批評

2020年1月28日更新

2020年2月1日より新宿武蔵野館ほかにてロードショー

夢と希望と生きる勇気に満ち、前向きでエネルギッシュ。思いやりをめぐる感動作

八仙飯店之人肉饅頭」「ザ・ミッション 非情の掟」「インファナル・アフェア」「イップ・マン 最終章」など、圧倒的な存在感と卓越した演技力で驚くほどバラエティに富んだ役柄を演じ分け、数多くの作品でまったく違う強烈な印象を残してきた香港の個性派名優アンソニー・ウォン。彼のフィルモグラフィにまた1本、決定的な代表作が誕生した。

香港の小さなアパート。不慮の事故で半身不随となり、車椅子での不自由な生活を強いられ、人生に絶望している頑固で孤独な中年男性チョンウィン。彼は住み込みの家政婦を募集するが、派遣されてきたのは広東語の話せないフィリピン人女性エヴリンだった。重い障がいがあり、気難しい彼の世話は大変だったが、エヴリンは献身的な介護を尽くしてくれた。やがて、チョンウィンはエヴリンが日々の生活のために諦めてしまったカメラマンになるという夢を知り、それを叶えるために、ある贈り物を用意する…。

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物語は一見地味だが、夢と希望と生きる勇気に満ち、前向きでエネルギッシュ。まるで「賢者の贈り物」のような、思いやりをめぐる感動作だ。不自由を強いられ、困難な生活をしている人々にも誇りがあり、希望がある。名優たちが真摯に演じる最高の演技の数々と繊細な演出で魅せるこの心温まる映画は、血縁の有無、性別や国籍の違いなど関係なく、人間ひとりひとりが思いやりを持つことで、誰もが夢を追うことが可能であり、また他者に夢を与えることができると教えてくれる。また不自由と闘いながら、希望を失わない不屈の主人公に今の香港も重なって見える。

脚本を読み、ノー・ギャラで出演を快諾したというウォンは、車椅子での演技という困難をものともせず、抑制の効いた、しかし同時に内に活力をみなぎらせた芝居で見る者すべてを圧倒、その涙を搾り取る。香港電影金像奨で3度目の最優秀主演男優賞を獲得したのも納得だ。監督・脚本はこれが長編初監督となる新人女性監督オリヴァー・チャン。若手映像作家応援企画“劇映画初作品プロジェクト”で企画が評価されて資金援助を獲得、ベテラン監督フルーツ・チャンが指導を兼ねてプロデュースを担当して製作が実現、金像奨の最優秀新人監督賞など数々の賞を受賞、計算された知的な脚本、温かい視線で登場人物たちを捉える配慮の行き届いた演出で今後がとても楽しみだ。

江戸木純

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