「90分と思えぬ密度、タイトルがなぞるように腑に落ちていく」どうしようもない僕のちっぽけな世界は、 たいよーさん。さんの映画レビュー(感想・評価)
90分と思えぬ密度、タイトルがなぞるように腑に落ちていく
クリープハイプの尾崎世界観さん、主演の郭智博さんのアフタートーク付きで鑑賞。上映時間を観てびっくり。これで90分も行っていないというのか…。タイトルを咀嚼し続け、腑に落ちるまでの時間はあまりにも長く、濃いことを知る。
ネグレクトを疑われ不自由になった父親。周りが救済してくれる訳でもない。どうしようもないちっぽけな世界で生きる、1人の男の物語。ホントに救いようのない人なら分かるが、余白に救いの手が伸びてもおかしくない状況が多く、妙にヒリヒリする。定型文のような対応で仕事をしてくる役所であったり、他人事として距離を置いてもかゆくない母親であったり、期待が入り交じる祖母の対応であったり…。それぞれの自己満足の中で彼を取り囲む辺りが妙にリアルで怖い。その中にある、子供の純粋無垢な目はいつだって味方であってほしいと思ってしまう。
作品の中で特に際立って感じるのが、時の流れだ。単純なシーンとしての展開ではなく、次に生まれる変化を迎えるであろう空気が滲む。ただ、やはり静かの中に変化の意味を含みすぎて届かない部分もあり、ちょっと勿体ない気も。それでもこうしてヒリヒリと無情を感じているのだから、作品の持つ温度が伝っていることが分かる。
主演は多くの作品でバイプレイヤーを勤める郭智博さん。ちょっと尾崎世界観さんにも雰囲気が似ているとスクリーンでは感じたが、実際は180度異なるキャラクターで明るさが印象的。受け入れにくい現実を煙と一緒に吐き捨て、徐々に力を無くしていく姿が凄く心に刺さる。その他キャストも意外と豪華で、冨手麻妙さんや後藤剛範さんといった方も顔を揃えている。
凄く難しい問題であるが、その根本が不可侵な所にいるのも事実。結構考えさせてくれるし、その痛みを曲がりなりにも分かった気がする。