わたしの叔父さんのレビュー・感想・評価
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反復と変化。そこに浮かび上がるユーモアと人間描写が素晴らしい
また北欧から秀作が届いた。長年二人ぼっちで支え合ってきた叔父と姪。冒頭からしばらく台詞は無く、まるでサイレント映画を見ているかのように、わずかな表情と単調な身のこなしだけで、もう何年も変わりばえのない農場の暮らしが描かれていく。かくも丁寧に刻まれる反復。だが映画における反復とは、やがて生じるズレの予兆でもあることを私たちは知っている。果たして、父娘のような二人に訪れる転機とはーーー。互いの幸せを願うほど身動きが取れなくなっていく、この踏み出したいのに踏み出せない、もどかしい関係性の描写が実に素晴らしい。時に身を切るように切なく胸に迫るものの、かと思えば笑っちゃうくらい辛辣であり、それでいて優しく、愛おしい。この匙加減がなんとも絶妙だ。何より魅力的なのは、深刻なテーマを扱いながらも、仄かなユーモアが作品内に絶えず光を宿し続けるところ。彼らに幸せが訪れますようにと願わずにいられない作品である。
旅立ちは順番。 人間は旅立たないといけない。 そして、それを送り出す人たちの物語。
酪農は
本当に大変だと思う。
休めない。366日。1年中、24時間。
NHKの「ラジオ深夜便」に、たびたび投稿をなさる常連の「鳥取の若葉さん」。あの方も牛舎で作業をなさりながらラジオを聴いておられる。
「コーダ あいの歌」では、登場人物たちの生業は漁業だった。海が荒れて海に出られないと、そして不漁続きだと、漁師の生活は破綻する。生きていかれなくなる。
その「コーダ〜」の元になったオリジナルの映画は「エール!」だった。この「エール!」のオリジナルストーリーでは一家の仕事が「酪農」だったわけだ。
酪農業も、牛舎に出ないと牛が死ぬ。そして収入が絶たれる。飼い主も暮らしていけないから死ぬ。
有給休暇など皆無の、厳しい仕事だ。
きっと酪農家の人たちは、冠婚葬祭や急用の折には、お互いにヘルプをし合える同業の仲間を確保しているはずだ。
牛の世話は絶対に休めないからだ。
牛の世話。そして人間の介護。
どれもが繋がっている命綱の関係。
そして、本作を含めて、これらの作品の共通の悩みは
「休むわけにはいかないその家業の中で、しかも、欠けてはならない働き手が一人、抜けるかもしれない」
という四面楚歌の苦しいテーマだった。
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わが家の両親の事は、時々自分のメモとしてこのレビューでも触れているが、 老健で暮らしている。
息子たち三兄弟で、入れ替わり立ち替わり、特急と飛行機を乗り継いで面会に行っている僕らだ。
とりあえずは、昨春から素敵な「サ高住=サービス付き高齢者向け住宅」に父母揃って入所したので、安心はしているところだ。
衣食住の全てが、あのペンションのようなお部屋と +付帯施設で供される見守りのシステム。あの体制には、身障の老人が生きていくための、絶対的な安心感がある。
でも、
本人たちの感じている寂しさの「本心」の所在は分かっているから、三兄弟は間隔を開けずに連絡し合って、泊まりがけで親たちに会いに行くわけだ。
でも、
末の弟が兄たちに念を押すように言ったのだ。
両親のために最も心を砕き、奔走してくれた一番下の弟だ。
「兄ちゃんたちにしっかり言っておくけど、もうすぐ終わる人たちのために、まだ未来がある人間が自分に犠牲を背負い込む必要はないのだよ」
「でも‥」「でも‥」が頭の中いっぱいの毎日だ。
どうすることが一番なのか、悩む事で頭の中がいっぱいなのだ。
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「わたしの叔父さん」
原題は「Uncle」。デンマーク映画。
身障者の叔父と、その姪の生活を見つめる映画。
「9分10秒」
映画の開始から流れる長い長い無言の時間。
スーパーマーケットで「ヌテラを」と叔父さんが口にするまでの、こんなに長い無言の時間が 9分10秒。
二人の生活。
( ヌテラって、ココア味のヘーゼルナッツの、パン用スプレッドのこと )。
「12分05秒」
姪が初めて声を出すのが12分05秒のところだ。
ここまで二人の声が聞こえたのはたったの2回。
「ヌテラ」
「きらめき」
ボードゲームの単語探しで、姪が叔父にヒントをくれたその一言。
「24分40秒」
娘の名前がクリスティーネだとやっと分かる。
言葉無しだから、余計に二人の毎朝の様子を こちらもじっくりと見せてもらえて、とてもいい出だしだった。
腰は曲がっているが、今までよく働いてきたのだろう。大きな良い手を叔父さんは持っている。
なぜ姪っ子と二人暮らしなのだろうか。(それはおいおい判る)。
姪っ子はお喋りではないが、叔父さんとの暮らしを大切にしているようだ。
スマホなど一切いじらないで、叔父さんの横で本を読んでいる。
きっと毎日が、何の代わり映えもしないで、この繰り返しだったのだろう。
パンをトースターで焼き、ヌテラを塗り、シリアルを食べる。
台所やリビングには蝿がいて、この二人の生活が牧畜業に しかと根付いている=作り物でない=ことがちゃんと分かる。
二人が喋らないぶん、テレビのニュースの音声が、二人が生きている世界の情勢を、ちゃんと生身の物としてバックアップしている。
だから、
この世界の片隅で
・姪としてはこの叔父さんを世話し、
・この老人の安全のために同居を守り抜くことが大切だった。
「旅立ち」など到底彼女の選択肢にはなかったんだけれど・・・
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映画は、
「何かを言おうとしている二人の表情」を映して、
そこでフイルムは終り、暗転する。
小津ばりの
大変に素晴らしいラストだ。
そして、再びの長い無音のエンドタイトルが流れるから、
物語の続きは僕らが想像するしかないのだが。
ここからは僕の想像のストーリーだけれど、↓↓
きっとクリスティーネは出て行くし、
叔父さんはそれを後押しする決心をしたのだろう
(と、僕は見る) 。
「でも‥」「でも‥」
生活の基本であった牛たちと、
最愛にしてかけがえのない叔父さん。
この二つを手放して、家を出ていく決心は
誰も彼女から奪えないはずだ。
旅立ちは順番。
人間は、あるものは死出の世界へ、そしてあるものは新しい恋の世界へ、
旅立たないといけない。
振り返る必要はない。
若者は生きるべきなのだ。
彼女は正解。
彼女の人生は正しい。
叔父さんがいつも寡黙だったのは、
じっと考えて、姪の「その時」を見極めるために、待っていてくれたからだろう。
助けられていたのはクリスティーネの側だったね。
クリスティーネのハートを聴診器で計っていたのは叔父さん。そして親身な獣医ヨハネスたちだった。
・・そう想いたい。
見送る事も、老人たちの力になるのです。
ケツをまくれ、クリスティーネ!
Tillykke. gå dit liv. ティリッキ ガダィリ
おめでとう、あなたの人生を歩きなさいね。
静かな映画です
大切な人を思う気持ちと過ぎゆく時間
ヌテラをたっぷり塗ったパンを朝食にし、おやつ片手にソファーでまったりするのが好きな叔父さんと、しっかり者の姪っ子クリスが暮らす田舎の酪農家のささやかな日々。
淡々としたやりとりに人間の匂いと温度があふれ本当の親子のような長い歳月、互いを必要とし大切にしてきたことが伺える。
そして避けては通れない老化と成長を実感する積み重ねを眺め、いつしか自分も含めた三角形を行き来すると透けてくるのは家族のなかにある〝自分のための人生〟だ。
クリスを邪魔したくない叔父さんの気持ちと叔父さんをどうしても守りたいクリスの気持ちが苦しくもあるが、この感情に向き合えるのは2人がそれまで幸せな時間にいた証なのかも知れない。
恩返しをやりとげてクリスはきっといつか彼女らしく羽ばたく。
そんな気がする。
近いほどみえにくいが実は限りある時間にある貴さ。
ゆっくりじっくり味わううち切なさや愛しさや感謝が胸を覆い、ふといつかのことを思い出したり、誰かに会いたくなる温かさをもつ作品だった。
夜明け前の二人
とても美しく とても静かな作品
テーマとしてはあまりにも地味過ぎてどうかな…と少々不安がありつつも、観始めたとたんとにかく映像がきれいでのっけから引き込まれた。農村の寂しいながらもとても美しい風景はもとより、家屋内やスーパーの店内等々まで独特の美しい雰囲気で撮れている。日常を生々しさをそのままにきれいに撮る技術は神業の域。まったりストーリーなのに終始目が離せない。
会話が少ないのもこのテーマの中ではとても効果的。生活音や自然の音までもクリアに聴こえてくるようだ。最初の10分15分は、字幕がテレビの音声のみで会話が全くなかったくらい徹底した静かな創り込み。
配役的にも知っている出演者はいなかったが、皆本当に印象深い良い演技だと思う。主人公の気になる彼への想いもよく表現できていたし、その彼の少しまごついた仕草も絶妙。それを見守る叔父さんの遠慮がちな姿や、誕生日の聴診器のシーンなんかは、思わず涙してしまうほどだ。
全体を通して非常に評価されるべき作品だと思うが、個人的にはストーリー的にやり場のない寂しさが少なからず残ってしまったことと、なんだかちょっとイージーに感じてしまうタイトルが残念で、満点評価とまではいかなかった。
でもとにかく本作は、映像と音と役者の演技にはとことんこだわった良作であることには違いない。音のないエンドロールも、映像と音にこだわりぬいた最終形と言うべきか。
定点カメラで、ただ、ただ淡々と続く退屈な日常を覗き見する感じ。 残...
叔父さんが、父の死後、自分のことを救ってくれた事に感謝し、恩返しを...
クリスへの愛が溢れる。
当たり前に同じことを反復。
互いに語らずして成立する平穏。
突然訪れる些細で微かな自分の変化に、不安と戸惑いそして期待と希望が同時に溢れる。そんな演技がとてもチャーミングに感じられたと同時に、クリスを取り巻く叔父さんや獣医からも、その変化に対する喜びを感じられて、とても微笑ましく思った。
淡々とした生活の積み重ねが、とても大切な意味を持つという事を教えて...
淡々とした生活の積み重ねが、とても大切な意味を持つという事を教えてくれる作品。
ささやかな出来事や、誰にでも起こりうる事件を織り混ぜながら、日常をひたすら繰り返しているが、観ていて退屈することはなく、静かな映像が心地よい。
デンマークは日本と違い、学齢にはこだわらず、高校を卒業してからすぐに進学しなくてもよい。寄り道をしてからでも就学できる素晴らしい教育システムだ。
今がクリスにとって立ち止まる時間だと思うと映画の見方も違ってくる。獣医学部進学の権利を持つクリス。きっといつの日か、獣医という夢に向かって歩き出すのだろう。
叔父さんとの日常の穏やかなひとコマの終わり方、唐突だが印象的。そこに続く未来を思い描いた。
閉じていく映画 閉じていく人生
夕食時、いつもつけているテレビには、北朝鮮のミサイル、ヨーロッパへ流入する難民を伝えるニュースが流れ、世界に開かれた窓になっている。でも2人の生活には何の影響もない。そして最後にはテレビは壊れて、他の人とのかかわりもすべて拒んで、いよいよ2人の生活は2人だけの世界に閉じていく。
家族を失った生い立ちのクリスと、障害をもち孤独な身の上の叔父さんとの、相互依存的な関係はしょうがないのかもしれないけれど、あまりにクリスが失うものが多すぎる。温かさとか、優しさとか、この映画にそんなものを感じ取るのは違うんじゃないだろうか。
この監督、小津が好きなのだそうだが、小津の映画にも閉じていく何かを感じて、私は好きになれない。
叔父さんタイミング悪すぎるよー
説明的セリフがほぼないのが、日常のルーティンを表現している。それに...
わたしの幸せは…
見たことがないような映画だった。
デンマーク映画。だからではないだろう…
自国でも最初は上映館数は少なかったらしい。でしょうね。と思う。
27歳の未婚女性クリスと その叔父さんの静かな日常のルーティンを丁寧に細やかに映像でこちらに伝えて来る。二人の沈黙を埋めるかのように、TVからのニュースが流れている…音楽もなく、殆どセリフもない。最初はどうして二人なんだろう?と思っていると、次第に二人の関係が解って来る。
クリスは14歳で親を亡くした後、ずっと叔父さんと二人暮らしで、牧場を営んで暮らして来た…そして、ある時、叔父さんが脳卒中?で倒れて身体が不自由となり、クリスは叔父さんの着替えから食事の世話、牧場の仕事を甲斐甲斐しくこなして来たことがわかる。
そんなクリスに訪れる恋の?予感。デートに誘われるが、叔父さんも着いて来る…
獣医になりたいと思ってたクリスに獣医のヨハネスが本を貸してくれたり、牧場を離れた事がないクリスを都会の講演会に誘う。好意を寄せるマイクも、獣医も、クリスの幸せを願っているからこそ…広い世界を見せようとする…
叔父さんも、そうなのだ。クリスを自分の犠牲にしたくないのだ。マッサージ師を頼んだのも、デートに付き添ったのも、相手が相応しいかを確かめたかったのだ、と思う。クリスが自由になれるように…
でも…恐れていた事が起きる!それを機にクリスは獣医の夢も、恋も…潔く捨ててしまう!
そして、やがて…穏やかないつもの静寂の中で二人の生活が、いつものように繰り返される…
でも…いつもの静寂を埋めていた物が…
壊れる。
そこで 終わる…! え?
見終わって、あれ?何だったんだろう?
私のような思慮浅い人間は観ていけない映画だったかもしれない😨と焦った( ̄▽ ̄;)
その後 思い返し思ったのは この映画は 二人が築いて来た長い年月の内の ある数ヶ月?数週間?を切り取って私達に見せていただけなのだ。
そして、クリスと叔父さんの絆が、映画では描かれていない過去で、どんな風に育まれて来たかを想像する、させる映画なのだと思った。
周りがクリスの幸福を願っているのは解る。でも…
幸福を決めるのはクリス自身なのだ。
叔父さんは傷付き寂しかった子供のクリスを どんなに深く愛して来たのだろう。そして、クリスにとって叔父さんは たった一人の肉親であり、倒れる前の叔父さんは きっと逞しく頼り甲斐があり、優しい、かっこいいヒーローのような人物としてクリスには思えていたのかもしれないと思った。だから、クリスは叔父さんが大好きだったのだ。そう思う。
叔父さんは 決して外見が良いとは言えない。でも…その瞳は慈愛に満ちて、優しい。姪の初デートの為にヘアアイロンを買ったり、髪の毛をカットしてあげたり。誕生日に獣医に必要な聴診器をプレゼントしてくれたり…
きっと 叔父さんは ずっと昔から優しかったんだろう…。
クリスにとって 幸せとは…
ずっと叔父さんの傍に居て、
叔父さんを世話し、叔父さんと共に食べ、
叔父さんと共に仕事し、叔父さんを毎朝 起こす事。
だって…大好きな叔父さんだから!
恋よりも、夢よりも、
「わたしの叔父さん」が大切だから。
クリスの選択は仕方なくなんじゃない!
彼女が、自ら望んだ選択。
叔父さんも そんなクリスと またいつもの静かな毎日を送るのを 淡々と受け入れる。
この先 どうなるか分からないけど…
いいじゃないか….。彼女が幸せなら…
東京国際映画祭でグランプリを受賞したことで、デンマークで話題になり、上映館が何倍も増えたそうだ。
こういう作品を芸術作品というのかな?
ただ、心に何かを残す 不思議な余韻の有る映画だったのは確か…。
[ 追記 ]
レビューを書いてから、その後、じわじわと映画の良さが胸に来ています。
☆ 赤石商店 土蔵映画館にて
9/30鑑賞
あー疲れた
潔いラストシーン
冒頭10分位、セリフの無いシーンが続きます。まさに淡々とした日常とはこのことで、生活音、自然音のみ。
起床、朝食、仕事、夕食、食後、就寝。
何も考えずに、全く同じことを繰り返す、変化の無い生活。
なんか凄い映画が始まった感じ。
そして、叔父と姪の日常には、関係性から生じる「笑い」があるので、とても微笑ましくもあります。
叔父と姪が一緒に生活することになった背景や将来のことなど、観客にも漠然とした不安を与えながら、少しずつ生活に変化が見え始めます。
外的な刺激が、淡々とした日常に影響を与え始めることは、希望か不安か。
そして、こんなに潔いラストシーンは、なかなか無いです。そこで終わり⁉️
さらにエンドロールで、
立ち上がれなくなりました。
印象に残るシーンが多く、お気に入りの一作になりました😊
それでいいと思う
デンマークの酪農女子
小さい時に両親を亡くし叔父さんに引き取られたクリスは、20代後半になり、体が不自由になった叔父とデンマークの田舎で酪農をしながら2人で暮らしていた。
また、彼女には、獣医になるという夢があり、勉強しながら時々獣医のヨハネスを手伝いをしていた。
そんなある時、教会で出会った青年マイクからデートに誘われ、叔父と食事に行ったり映画を観に行ったりした。
ある日、ヨハネスからコペンハーゲンでの学会に参加しないか誘われ付いて行ってる時に叔父が倒れ・・・という話。
デンマークの酪農の様子や、ラジオから流れる世界のニュースが新鮮だった。
自分の夢、叔父の心配、恋、などが絡まり、クリスの心の動きが感じられる良い作品だった。
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