「素晴らしい映画(ネタバレ)」わたしの叔父さん marumaru218さんの映画レビュー(感想・評価)
素晴らしい映画(ネタバレ)
エンドロールが始まって、ハッと気がつく。
最初から最後まで音は少なめだがエンドロールも一切音は出ない。
そして気がつく。つまり、毎日変わらぬ音の聞こえる日常を営むのが、この映画の結末だったのだと。
獣医への道はクリスが積極的に指向したわけではなく、ヨハネスがキッカケを作った。マイクとの出会いもクリスよりもマイクからの誘いがキッカケに乗ったのだった。
クリスが家を離れたくないのは自分達の牛のためではなく、叔父さんを理由に挙げる。
周りの人達が言うように、クリスの人生は叔父さんに縛られる必要はない。観客の中にもそう思う人は多いと思う。
でも、映画の結末はクリス側だ。
この映画の主題は、高齢化社会を含む現代社会の問題とも言える。昔であれば、ごく自然にマイクの実家のように4代も農家を引き継げる。
しかし、現代社会では難しい。優秀、有能な若者の選択を限定してしまっている。これが良いか悪いかは映画は言っていない。いや、華やかなシーンがないから、クリスも抜けたい気持ちはあるのかもしれない。
クリスがここから抜けない選択を取った事が描かれている。
或いはクリスはその選択に何の不満もないかもしれない。東京やコペンハーゲンのような大都市にいれば、公共交通機関でもみくちゃにされたり、スマホで時間を管理したり、人々と交流したり、身だしなみに気を遣ったりしないといけないが、クリスにはその方が苦痛なのかもしれない。
エンドロールが流れる直前の平和な日常が取り戻されたのを見て、観客は胸を撫で下ろすが、それで良かったのか、と考えさせられるのだろう。
音が情景を物語る作品でもある。
トースターのコイルの音が、タイマーのないトースターである事を物語る。車のシフトチェンジの音がマニュアル車で広大な大地を走る事を物語る。
一方で、マイクと景色を眺める時にも風が吹いたり、水鳥の大群が飛び交うが、風の音や鳥の声はせず、静寂が表現される。
ラジオは、物語が2018年のことである事を伝え、
デンマークの平原が美しいのも印象的だ。
デンマークは北極に近いので、夕食の後でも明るいのは白夜なのだろう。この映画はひと夏の日常であり、冬の厳しさは描かれていないことになる。
デンマークの美しい自然も描かれており、素晴らしい映画だと思う。