「「12日の殺人」の前触れ」悪なき殺人 詠み人知らずさんの映画レビュー(感想・評価)
「12日の殺人」の前触れ
フランスの地中海にも近い、牧畜が盛んなコースと呼ばれる高原の別荘に来ていた女性エヴリーヌが行方不明になる。疑われたのは、羊の牧畜をしている農夫のジョセフ。共済の業務もしているアリスは、牛の酪農業を営む夫ミシェルがありながら、ジョセフと不倫関係にある。一方、パリのレストランで働く、若い女性マリオンは、パリで知り合ったエヴリーヌと同性愛の関係にあったが、セートと言う地中海沿岸の地名を一つの頼りとして、コースにエヴリーヌを訪ねてきていた。この5人を中心とするコース高原の空間に対して、フランスの旧植民地コートジボアールの最大の都市アビジャンに住むアルマンがもう一つの空間を作り出す。しかも、アルマンは、ネットで見つけたマリオンの画像を使って、アマンディーヌという女性になりすまし、SNSで食いついてくる獲物を狙っていた。食いついてきたのが、ミシェル。
この時、一つの殺人事件が起きるが、それをアリス、ジョゼフ、若いマリオン、コートジボアールにいる「アマンディーヌ」の側から、映画「羅生門」のような手法で描いてゆく。しかし、羅生門と違うのは、一つの事象をそれぞれの立場から描くと言うよりは、パズルをはめてゆく感じ。相互に矛盾はない。
どこが面白いのか。何といっても、多空間的、多面的に、ミステリーが解かれてゆくところ。もう一つは、コートジボアールでは、SNSが広まっている一方で、黒魔術が健在で、サヌー師という得体の知れない人間がでてくるところか。こうしたところから、フランス語が、いわば母国語であることを活かして、移民としてフランスに出かけてゆくわけだ。
最後に、意外なところから、二つの空間が繋がっていることが明らかにされ、輪が閉じる。ここに、ヌーベルヴァーグが透けて見えるところが、フランス映画。さてドミニク・モル監督の次の作品「12日の殺人」ではどうか。