「人間は愛欲には勝てない?」悪なき殺人 pekeさんの映画レビュー(感想・評価)
人間は愛欲には勝てない?
面白かった。かなり楽しめました。
アリス→ジョゼフ→マリオンときて、アマンディーヌの章から俄然ストーリーがダイナミックに動いていく。物語のスケールがぐんと大きくなった。
現代のインターネット社会でなければ起こり得ない事件。
それぞれの関係が浮かびあがり、繋がっていく過程はスリリングで、「おー、そう来たか!」と意外な展開に引き込まれました。
そういえば、こういった特殊詐欺の被害は外国でもあるやろなぁ、と気づかされたり。
そして何よりも、騙されたと分かったあとも、なおチャットでやりとりをするミシェルの姿が切なかった。印象深い場面だった。
さすがにラスト・シーンは、「そこまでやったら話作りすぎやろ」と思ったけれど、全体的に面白かったので許してあげましょう。
あと、ジョゼフのパーソナリティーがいささか強すぎるのではないかと感じましたが、どうでしょう。彼の変質性とその行動の印象が強すぎて、少々ほかの出来事とのバランスを欠くような気もしないでもなかった。
ところで、本作のキャッチ・コピーは、〈人間は、「偶然」には勝てない―〉ですが、僕はこの映画を観ていると、〈人間は、「愛欲」には勝てない―〉と言いたくなってきましたよ。ほんとにねぇ……。
さいごにリアリティーの観点から申し上げると、ジョゼフがエヴリーヌの遺体を背負っていくシーン。あんなに足がブラブラしないはず。死後硬直という現象があるのだから。極寒の地ならなおさら遺体はカチンコチンに固まっているはずです。昨年ある出来事を体験したので、そう思ったのでした。
――と、ここまで書いて、念のため死後硬直について調べたら、な、な、なんと、いったん硬くなった筋肉が、時間の経過とともに軟化(緩解)していくというじゃありませんか。はーっ、知らんかった! もちろん条件によって違うのですが、冬でも4日くらいしたら硬直が解けるらしい。だから、それだけの時間が経過しているのだと考えると、あのシーンはあれでいいのかもしれません。