「布団を叩く音は騒音なのか、それとも生活音なのか…」ミセス・ノイズィ yookieさんの映画レビュー(感想・評価)
布団を叩く音は騒音なのか、それとも生活音なのか…
15年以上前に世間を騒がせた事件から着想を得たフィクション。
低予算ながらも大変よくできた作品で、正直唸った。泣かされた。
人の思い込みや決め付けは本当に怖い。人は見たいものを見たいようにしか見ていない視野の狭い生き物だ。そんな分かり切った事を巧妙かつストレートに突きつけてくる作品だ。
主人公も、隣人のおばさんも、お互いに自分が正しいと思っていて、相手にレッテルを貼っている。それが最初は主人公の視点で語られているが、途中で隣人に視点が移る。すると、我々観ている側の意識もガラッと変わる。主人公の娘が腕のあざをどうしたのかと聞かれた時に「机にぶつけた」と答える。最初は主人公に肩入れしていたのが、隣人視点になった時に今度は母親が疑わしく感じてしまったのは私だけじゃないだろう。きっと娘は真実を語ったのだろうが…。
主人公が引っ越して来たあの日、隣人に挨拶に行っていたなら、どうなっていただろうか。
それでも同じ事態になっていたかもしれない。でも、もしかしたら、隣人は夫の具合と朝の布団叩きの事を、主人公は仕事と家庭のことを、少しのエクスキューズを言えたかもしれない。結局、主人公夫婦は再度引っ越すことになるが、最後の挨拶となったベランダ越しに聞いた隣人の布団を叩く音は、決して煩くはなく、むしろ懐かしささえ感じてしまうような、心地のよい生活音だった。あれは音の演出なのか、それとも、最初から同じ音だったのに、やはり観ていた側の思い込みだったのでは…と、もう一度見直してみたくなるほど、ハッとさせられた瞬間だった。
どこまでいっても他人は他人だし、人の生活や言動の真相まで知りえないのは当然だ。だからこそ、あの人はこうに違いない!と、断定することなど到底できないのだと、相手をよく見て話して理解する努力が必要なのだと、思い知らされる。努力をしても分かり合えないかもしれない。でも最初から諦めるより、何もしないより、勝手に思い込んでしまうより、少しは楽かもしれない。そんな風に思えた。
最終的に主人公が出版することが出来た本の帯に書かれた「笑って泣ける」の言葉通り、最初はケラケラ笑ってしまっていたのが、どんどん笑えなくなり、最後には号泣してしまう。実に上手い。衣装の演出もよく考えられていて、主人公の着る洋服の色や化粧の濃さがどんどん攻撃的になっていくのが演技も相まって視覚的に恐怖を与えていた。役者も全員素晴らしかった。
もっと多くの人に見て評価されて欲しい作品!