「大人でも楽しめる」約束のネバーランド R41さんの映画レビュー(感想・評価)
大人でも楽しめる
昔は、昔話を使って子供たちへの教育にしていた。この作品はその昔ばなしの手法で新しいおとぎ話を普遍的な観点で描き出している。
昔話は大抵恐ろしさによって子供を教育する。あれもダメこれもダメ、言うことを聞きなさい云々だ。
しかしこの作品はその手法を用いながら、子供たちに新しくも普遍的概念を教えている。その言葉が散りばめられている。
そして戦後教育がもたらした現実に対する嘘の恐怖と、「私の本心」からやってくる直感、真実とは何かを子供たちひとり一人に考えさせる機会を与えている。
西暦2045年 鬼が人間と対峙していたがお互い疲弊し、お互いの世界を侵害しない協定が結ばれ、そのために鬼の食料となる人間を育てる農場を作って、定期的に食用児を出荷する。
いかにも子供が怖がりそうなこの設定は、子供心を掴む。
やがてそれに気づいた子供たちが脱走の計画を立てて行動するが、ママと呼ばれる管理者によって作戦が失敗に終わる。
子供たちは「世界」を知らない。だからそこに行ってみたい。
しかし、昔は同じように思った大人たちはかつての夢をあきらめ、見えている世界で、見えている将来に沿って生きることを選択した。まるで現代日本と同じだ。
この大人たちがかつてした「あきらめる」という決断によって、なんてことない世界に住むことが「幸せ」だという基準を作り、それを子供たちに強いる。本当に日本社会の縮図だ。
そしてちょっと失敗した子供にこうささやく「あなたは何もできなかった。騒いでも無駄よ」
子供たちには次々と絶体絶命的事態が起きる。なかでもノーマンの死は絶望的内容だった。
このような危機を子供たちに疑似体験させて、同じように絶望感を覚えさせながら、それでもまだ打つ手はあると、奥の手を差し伸べる。
それがノーマンが松坂桃李くんから聞かされた言葉だ。「世界にはまだ食用児を救いたい人々がいる」
視聴している子供たちが何度もあきらめてしまうように窮地を作りながら、それを乗り越えるための希望を伝えている。
レイの言葉「僕は勉強も本も好きじゃなかったけど、この世界の秘密を知ったから一生懸命考えた」
「世界は変えられない」 ママのセリフは、家族が子供たちにしている話と同じだ。
でも子供たちはあきらめず、自分の信じた道を行く。これは大人への第一歩であり、親離れであり巣立ちを意味する。
勇気 自分を信じること。
子供たちに伝えたいメッセージが詰まったこの作品は美しい。
また伏線の張り方やトリックの方法も面白かった。
何が幸せで、何が違うのか? 子供たちが自分で考え自分で答えを出すような社会になって欲しいと思った。