「焦点をホラーに絞っているのはいいが、相変わらずの大風呂敷と一本調子はマイナス」イン・ザ・トール・グラス 狂気の迷路 徒然草枕さんの映画レビュー(感想・評価)
焦点をホラーに絞っているのはいいが、相変わらずの大風呂敷と一本調子はマイナス
キング原作の映画は当たり外れが大きいが、本作はやや面白い部類に入る。理由は、テーマをホラーやサスペンスに絞り込み、変なヒューマン要素を交えていないためだ。
監督は「キューブ」の監督で、そういえば設定といい展開といい、あの作品に似ている。
「キューブ」の場合、正体不明の四角の部屋に主人公たちが放り込まれ、どうやったら脱け出せるかを描くものだった。本作ではそれが丈の高い草の群生地に置き換えられ、一度入ると抜け道がわからなくなってしまう。
「キューブ」と同様、主人公たちの他に何人かがすでに迷い込んでいて、彼らの話も参考にしながら脱出を試みること、その中の一人が仲間を攻撃し始めるという点も共通している。
何故抜け出せなくなるのか、どうしたら抜け出せるのかという点に焦点が絞られているため、キング作品にありがちな多数の要素を盛り込みすぎて散漫になる欠点は回避できている。また、次々に新しい謎を主人公たちに与え、それを解きつつ切り抜けさせていく点もいい。
ただ、キングによくある大風呂敷を広げ過ぎて、最後まで畳めずに投げ出してしまう欠点は表れている。
具体的には、草の群生地は意識を持つ一つの生命体である上、時間を自由自在にループさせて、永遠に同じ人物たちを何度も何度も自分のうちに取り込み、植物化させる力があるという設定なのだが、草の生命体の迷路の恐怖を描くなら、別に時間を自由にできる能力など不要である。この時間ループ云々で群生地はまったく日常の論理に回収できなくなってしまうため、怖さが空疎になっている。
また、監督の演出の問題だろうが、群生地に迷い込むや否や、登場人物たちがしきりに叫びまくる単調な展開にはややウンザリさせられた。黙々と脱出を試みるうちに、徐々に出られないことが判明していく焦燥感とか、何度も期待を抱いては失敗する徒労感とかがまるきり描かれていないのは、この監督の限界かもしれない。