「【カルチャーなんかを考える/映画を読む】」フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊 ワンコさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5【カルチャーなんかを考える/映画を読む】

2022年2月3日
iPhoneアプリから投稿

この「ザ ・フレンチ・ディスパッチ・オブ・ザ ・リバディ、カンザス・イブニング・サン」と、なんとも長いタイトルの作品は、”読む映画”なのだと思う。

字幕を読んでいるからなんて、ツッコミはしないでください😁

そして、当然、雑誌のような構成になっていて、「街」「アート」「学生運動」「事件(食)」と、多くの人々の興味を引きそうなテーマが綴られている。

ただ、人によっては、街と食には興味があるけど、アートと学生運動はいいや、みたいな読み飛ばしが可能な感じも雑誌らしい。

そして、それぞれのテーマを見る角度も直球じゃなくて、変化球…それも、スプリットもあれば、スライダーも、ナックルもあるような多角的な感じだ。

昔は、雑誌が、カルチャーや、アート、ムーブメントをリードするようなことは沢山あったような気がする。

文化や芸術、運動なんていうと堅苦しいし、若者文化なんて呼び方は上から目線で面倒臭かったが、カタカナ表記は、インターナショナル感や新しい潮流を感じさせた。

アーティストのキース・ヘリングや、浅田彰さんの「逃走論」なんかは雑誌が初めて紹介したものだったような気がする。

イタ飯もそのはずだ。僕は、その先駆けとなったイタリアン・レストランのオーナーシェフと、とある理由で面識がある。

ファッションを考えてみても、僕らより前のジェネレーションが好きだったアイビーやトラッド、女の子たちだったらハマトラとかニュートラとか言われたカテゴリーは、高級ブランドやファストファッションはもちろん、ファッションイベントが主導したものではなく、雑誌が紹介して巻き起こった流行のように思う。

既存の価値観と異なるもの、海外のもの、新しいものへの憧れは洋の東西を問わず、特に若者には憧れなのかもしれない。

そして、このフレンチ・ディスパッチのテーマの取り上げ方や、モノの見方は、田舎(カンザスはきっと田舎者の比喩だ)者のアメリカ人に向けたようで、実は、世界中の多くの人々に向けたような、ある意味、物事を見る角度は多様だと普遍的なメッセージも含んでいるように感じる。

雑誌自体が多様なテーマを持ち、即時性よりも個性的で掘り下げた多様な見方を提示する。

現在の、多様性や個性を排除した、即時性に偏り、そして安直なネットメディアとは大いに異なる感じだ。

「街」自転車であちこち巡れば、新たな発見やハプニングがあるのだ。

「アート」芸術は自由が基本だが、認められるまでには紆余曲折がある。

「学生運動」ここには、語りつくすことの出来ない若者の理想を掲げる尊さや、勢いの瑞々しさ、恋愛、そして、悲劇もあるのだ。※そう言えば、日本には学生街の喫茶店というフォークソングがあったなあ。

「事件(食)」事件を通じて明らかになるのは、外国人への差別や、食という普遍的な欲求を満たすことへのプライドだ。

身近なものも、少し縁遠いものも見方を変えれば、新たな考え方の道標になるかもしれないし、その後の自分の人生のスパイスになって、豊かに彩られるかもしれないじゃないか。

僕は、郵便で送られてくる、この作品がインスパイアされたきっかけの「ニューヨーカー」誌を定期購読している。表紙が良い。

この「フレンチ・ディスパッチ」のエンドロールで映し出される表紙アートも見逃さないで下さい。

嵩張らないiPadで雑誌を読むのも効率的だけれど、やっぱり本や雑誌みたいな紙の媒体は自分の人生には欠かせない。

きっと、この作品には、きっと、そんなアナログなメッセージもある。

ワンコ
talismanさんのコメント
2022年2月6日

そうですね!まさに雑誌でした。読み飛ばす箇所あり、何回もしつこく読む箇所あり、表紙につられて買ってしまうこともあり!雑誌好きには堪らないと思いました。

talisman