「フランス文化へのオマージュがある」フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)
フランス文化へのオマージュがある
レア・セドゥの素晴らしいプロポーションを拝めただけでも十分に満足だが、本作品にはアメリカ人から見たフランス文化への憧れのようなものが垣間見えて、微笑ましさが感じられる。
まずネーミングが面白い。町の名前がアンニュイである。フランス語のennuiは、日本語の倦怠や英語のboredomと少しニュアンスが違っていて、現世に対する幻滅のような哲学的な意味合いが含まれる。料理人のネスカフィエという名前は実在した天才料理人のEscoffier(エスコフィエ)へのオマージュだろうか。
アメリカ人から見たフランス人のイメージというのは、本作品で見られるように、ほとんど笑わず、真顔で面白いことを言う感じなのだろうか。芸術至上主義は刑務所の中にも入り込んでいて、看守は囚人の芸術性を尊重しているようにも見える。ルールよりも賄賂が優先するのもケッサクである。
学生運動が学生のものだけではなく一般人にも受け入れられているのもフランスらしい。日本人みたいな冷ややかな視線を向けるでもなく、アメリカ人のようにヒステリックに叫ぶでもなく、学生運動にもそれなりの意味や意義を認めているのだ。そういえばレア・セドゥが映画「アデル・ブルーは熱い色」で演じたエマは、アデルと一緒に学生のデモ行進に参加していた。とてもゆるいデモ行進で、飲み物を飲みながらゆっくりと歩き、時には恋人とキスをしたりする。
本作品の底流にあるのがまさにそういったフランス流のゆるいデモ行進のような雰囲気である。市民革命によって自分たちで民主主義を勝ち取った人々の余裕みたいな精神性がある。なかなかいい。
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