「最初の3分で離脱・意味不明になる人が出そう…(説明入れてます)。」フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊 yukispicaさんの映画レビュー(感想・評価)
最初の3分で離脱・意味不明になる人が出そう…(説明入れてます)。
今年24本目(合計297本目/今月24本目)。
架空の雑誌社をテーマにした、ほぼ3話からなる文系ネタというお話。
ただ、この3話の中に出てくるお話が、かなり文系ネタに偏っており、しかもどの作品もかなりの知識を要求するというマニアックさがある一方、開始3分からマニアックなセリフが登場するという状況で、かなり人を選びそうな気がします。
とにかく情報量がありすぎな映画で、最初の3分でマニアックなセリフで帰りそうな人も出てきそうです(まぁ3分では帰らないと思いますが…)。一方で、事実上3話(実際には4話だが、3話とみなしうる)に分かれており、そこで描かれている「テーマ」はぶれていないため、その話をしはじめると一気にネタバレで、そのあたりものすごく難しいです。
どうにもこうにもレビューのしにくい映画で、一方で、実に他分野な事項(主に文系。理系ネタはほぼなし)を深く取り上げるため、とにかく色々な知識に詳しくないとハマリ現象が発生します。
※ 1話目:話題1つ
※ 2話目:話題2つが重なる。しかもこの「話題」2つは完全に分野違い。
※ 3話目:話題1つだが、3話目のみやや理解はやさしい(難しい内容を扱っていない)
一方で、この映画は実は「国語的に」(=換言すると、英文法的に)本国でも議論の的となっていることを扱っている部分があります。この部分を理解していないと最初の3分でアウトになるという特異な映画で、正直ここがかなり厳しいです。
日本もアメリカもそうですが、雑誌にせよ新聞にせよ、出す前にはだいたい「校閲」という作業が入ります。日本では「ら抜き表現」等がチェック対象になるように、アメリカでもチェック対象になる文法事項があります。この映画はそこを本質的に最初から問う部分があり、ここで最初から???になる方が続出するのでは…と思います。
この部分の説明はいると思うので、さっそく採点に入ります。
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(減点0.3) 何度も書いている通り、「雑誌の校閲」という特殊な事項が裏で登場する割に、その字幕が「懸垂分詞や分離不定詞、スペルミスなどはチェックの対象だ」という、一見して「???」なものです。正直「懸垂分詞や分離不定詞」の意味が分かる方はかなりレアではないかと思います。
日本では英語教育は中高までで、英文法もそこまで詳しく扱わず、これらは一応「よくないとはされるが、学校英文法までそこまで扱うのも酷」ということで、大学入試や英検等でもそれらはあまり考慮されず、一方で就職すると、英検よりもTOEICよりな風潮があるところ、TOEIC系の教材では「懸垂分詞や分離不定詞」を扱うことはまずもって存在しないため(これらの語句そのものが出てこない)、日本でこの字幕が理解できるのは、英文学科卒という方以外だと、英検よりの知識を持っている方くらいしかおらず、極端にマニアックです。
一方で、アメリカではこれらは日本でいう「ら抜き表現」と同じような扱いで、普通に議論の対象になります。要は、日本とアメリカでは「文法に関する考え方が違う」のであり、その前提でこの字幕はかなり厳しいです。とはいえ、字幕担当の方もあることないこと書けないのであり、もう前提知識を持っていくしかないと思います。
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▼ 懸垂分詞や分離不定詞(はチェックの対象)の「懸垂分詞や分離不定詞」って何?
● 懸垂分詞
・ 分詞構文で、分詞節の意味上の主語が、主節の文の主語と同一ではないのに省略する書き方を「懸垂分詞」構文といい、アメリカ英語(=アメリカ国内では、「国語」)では非文法的とされます。
>> Looking for a theme, a good idea occurred to me.
(テーマを探しているうちに、よいアイデアが思い浮かんだ)
※ 例文引用:「ロイヤル英文法」
・ Looking for a theme の意味上の主語:「私」か、少なくとも「人」
・ a good idea occurred to me の主語: 当然 a good idea
→ この2つが異なる。このように主語が異なる分詞構文の場合、主語を文中で明示しなければならない。
※ ただし、意味内容的に「良いアイデア」が「テーマを探す」ことはありえないため、「好ましくはないが、理解に妨げはなく、誤解を招かない」という扱い。
● 分離不定詞
・ 「to 不定詞」 の to と 不定詞(動詞原型) の間に、他の語句(主に副詞)が入ってくる現象を「分離不定詞」といい、こちらは懸垂分詞以上に許容派(日本で言えば「ら抜き表現」容認派のようなもの)と、否定派の「いや、国語的にはダメだ」という争いが大きいところです。
>> He failed to entirely comprehend it.
(彼はそれを完全に理解することはできなかった)
※ 例文引用:同上
・ to 不定詞(to comprehend)の間に、entirely「完全に」という副詞が入っていることに注意。
→ アメリカで習う「規範的な英語」ではアウト扱い。日本でも「良くない」とはされるが、あまり意識はされない。
実はこのようなことを序盤3分で述べていて、「懸垂分詞(dangling participle)や分離不定詞(Split infinitive)やスペルミスは…」という部分につながっているのですが、それが説明なしに登場するのはものすごくきついです…。
※ …という、実は裏側では「雑誌社での「文法の校閲」という、アメリカ国内での模範国語(=英文法)のお話」がこっそり絡んでくるセリフなのであり、日本国内ではここまで深く学習する機会はまるでないので、極端に難しい状況になってしまっています。
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※ このことは、日本映画なら、例えば何の映画でも「そのら抜き表現、正しく修正しておいたよ」であれば、少なくとも多くの方は理解できても、この他言語バージョンでこの「ら抜き表現」を正確に翻訳してしまうと、大半の外国の視聴者は理解しえない、というのと同じ話です。
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yukispica様
「共感した」しか、押す項目がない事にこんなに困ったのは初めてです。共感というよりは、「キャー、勉強になるぅ!」という感じです。
私は正に文系とほぼ無縁の理系生活を送った人間だったので、主様の英語文法に着目したレビューは非常に参考になるものでした。正に、冒頭3分ぐらいで情報についていけずパニックでしたね。w
「他の人はどういう事を思ったのかな?」と思い、レビューを見たら、大半はいつものウェスルックを賞賛するものばかりで困ってしまっていた所で、こういった視点のレビューに出会えた事がとても嬉しいです。
はてさて、正直日本語でさえ自信のない私ですから、主様に校閲ダメ出しを食らったらどうしようかと、非常に心配ではありますが、せめて私の「意図」だけでも伝われば、と思いコメントさせていただきました。
長文失礼しました。