「監督作10作目記念にふさわしい!見るべき所が多い贅沢な作品」フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊 山田晶子さんの映画レビュー(感想・評価)
監督作10作目記念にふさわしい!見るべき所が多い贅沢な作品
ウェス・アンダーソン監督の記念すべき10作目となる本作。物語の舞台は、20世紀フランスの架空の街にある「フレンチ・ディスパッチ」誌の編集部。
どんな映画なのか全く想像できないまま鑑賞していたが、フランスらしい色使いの建物や風景、足下まで気になる緻密な衣装、ユーモア溢れる考え尽くされたストーリーに驚かされた。
冒頭で表れる、編集部ごと一軒家をシェアしながら働いているような表面的な画角の描写は、本作を高級料理店コースに例えると食前酒を詳しく説明しているような場面。序盤から感覚がポッと温かくなり、この先何が出てくるのかワクワクさせるような前振り。その後は、編集部員が追う3人の登場で一気に視野が広がっていき、3つのストーリーが同時進行。食前酒の後、3枚のメインディッシュが目の前に出てきてたような状態で、各々の皿を一枚一枚一口ずつ吸収しないと貴重な食事の味(ストーリーの醍醐味)がわからなくなるのでそれは避けたいところ。
その3人とは「服役中の天才画家(ベニチオ・デル・トロ)」「学生運動のリーダー(ティモシー・シャラメ)」「警察署長の美食家(マチュー・アマルリック)」。彼らの奇想天外な状況と言動が1つの記事にまとまるように思えないところがまた面白いので、キーとなる3人は顔と肩書きだけでも押さえておくのがいいのかもしれない。
本作そのものが、一冊の(架空の)雑誌「フレンチ・ディスパッチ」であり、ここには個性豊かなプロが集まる編集部と、各々の記事の要となる様々な人物の背景が詰まっており、最後は見事な最終ページで完成されている。
どこか懐かしいホッとするような画像が終始表れ、耳ではスピード感がありながらも淡々と聴こえる語り。この視覚と聴覚の響きは、豪華なキャストに引けを取らない監督のセンスが感じられる。
もしも、衣装や背景にこだわりの強い本作のカットを集めた画集があるのなら、見て堪能するだけでなく、あえて切り抜いて絵葉書にしたり、切り貼りして手紙の封筒にしたくなるくらい「人に見せたくなるセンスに溢れた色使い」なので、映画ファンに限らず、建物やインテリア、ファッション、色彩に興味がある方にもチェックしていただきたい作品。