BOLTのレビュー・感想・評価
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安直なホラー仕立て
東北芸術工科大学制作、理事長は映画監督の根岸吉太郎、監督の林海象が教鞭をとっている、撮影は学生たち、美術は京都芸術大学で教鞭をとるヤノベケンジ、低予算なので高松市美術館への出品を兼ねて原子炉への廊下に使われたセットを造ったそうだ。
プロットはあの原発事故に触発されたのだろう、主人公はベテランの原発作業員、被ばく量が限度を超え、仲間たちが東京五輪の建設現場に移った後も現地に残り被災者住宅の遺品整理の仕事をしていたが耐えかねて自動車修理業に転身・・。
過ちを風化させないためにも事故の映画化は大切なこととは思うが、映像表現としては余りにも稚拙、まるで宇宙服のような防護服に明らかに顔の表情を見せるための過剰なフェースライトは玩具のようだ。
緩んだボルトをスパナで締めると言うアナログ技、映画の半分はボルト締めの苦戦です。
ただ、ベントに失敗した2号炉が爆発しなかったのは、たまたま容器の蓋のボルトが緩んだせいで圧力が抜けたからでしたから微妙です。技術監修もなく安直なホラー仕立ての演出が鼻につきます。
他のエピソードも不自然極まりない、新年とタイヤメーカーのロゴをひっかけたのは広告どりか、人魚の妄想も意味不明、まあ、社会派ドラマというより悪夢として描きたかったようですね・・。
三つに分けずに1つに集約すると評価が変わるかな?な作品です。
林海象監督作品と言えば、「私立探偵 濱マイク」や「探偵事務所5」と言ったハードボイルドな探偵モノの作品のイメージがありますが、結構好きな感じなのと、今作が7年振りの新作と言う事もあって観賞しました。
で、感想はと言うと難しい。
全部で三部作なので、三部作総合の感想で言えば、結構思っていたのと違う感じ。
エピソード1のタイトルにもなってる「BOLT」はかなり好きですが、後の2作に関してはイメージが先攻して作られている感じなので、好みが分かれるかな。
俳優陣は豪華で、林監督作品常連の永瀬正敏さんを主軸に置いて、作られてますがどっしりとして感じの重厚感はあります。
エピソード1の「BOLT」はまさしくこの作品のイメージその物。地震により津波が発生し、原発中心部のボルトが緩んだ事で原発汚染水が流れる事を食い止める男たちの物語。
青紫の電熱がバチバチと入るオープニングがカッコいい!これだけでテンションが上がってきます。
何処かレトロ感があるでっかい宇宙服の様な放射能防御作業着で作業する様はまんまSF。
そこに作業員がでっかいスパナを持って作業に入るギャップがたまらんw
本当にでっかいボルトを締めるのに手作業でやるのかは分かりませんが、機械でやるには味気ないので、映画的には手作業ででっかいスパナを持って挑む事で絵になるんですよね。
もうそれこそ、絵柄的に最終場面で強大な的に立ち向かうかの様に。
ガイガーカウンターが鳴り響き、否が応にも心拍数が高まり、緊張感が走る。
放射能汚染を考慮して作業時間が1分も決めた筈なのにそれでは何にも出来ない。
決死の思いでタイムリミットを無視して、ボルトを締める作業を行うが、締めては漏れ、締めては漏れの繰り返し。
もう、それだけで無情感が充満してやるせないし切ないんですよね。
それを淡々と挑み、粛々と諦める様の熱演に観入ります。
正直、このエピソード1が真骨頂でメインかと思うだけに、個人的には後の2作はオマケみたいな感じですかね。
エピローグ2の「LIFE」は震災後に自身の無力さを感じながらも生きる為に震災後の避難指定地区での遺品整理の特殊清掃につく男の話で、エピローグ3「GOOD YEAR」は生きる為に車の修理工の仕事をする男が謎の女と出会う話なんですが、それぞれに面白い所はあるんですが、どうにも蛇足感が感じるんですよね。
エピソード分けをせずに「BOLT」1本の中のお話に組み込まれているのであれば問題無いんですが、エピソード分けをした事で変にトーンダウンと言うか、レベルダウンしている様にも感じられる。
「LIFE」は震災直後に被災地に生きる人のリアルな現状を描いているかと思いますし、「GOOD YEAR」はある意味ボーナストラックな感じでクリスマスプレゼント的なファンタジー要素があるエピソード。
ただ、何故「GOOD YEAR」と言う、既存のタイヤ会社の名前も含めたタイトルにしたかは林監督なりの意図があって命名したと思うのである程度深読みもするんですが、店舗のネオンの「GOOD YEAR」の「O」の文字の1つが消えかけていて、GOOD YEARではなく、GOD YEARに読めるのは、震災で原発が爆発したのは神が人間に与えた罰の年であった事を意味して「GOD YEAR」を暗示させたと言うのは…深読みし過ぎですかね。
同じタイヤメーカーの名前を付けるなら「ブリジストン」や「ミシュラン」では…締まんないんでしょうねw
ただ、どちらにしても「男」のその後と再起を描いているんですが、エピソードにする理由もまた2つに分ける理由も薄い感じなんですよね。
個人的なこの作品の解釈は震災で起こった原発事故からの永瀬正敏さん演じる男のモノローグであり、エピソード1の「BOLT」がプロローグなら、エピソード2・3の「LIFE」「GOOD YEAR」はエピローグ。
タイトルにドーンと「BOLT」と付けてるからエピソード1がメインであるのは間違いないと思うんですが、もう少し膨らませても良かったかなと思うし、エピソード2・3がなんか足を引っ張っている感じもしなくはないんですよね。
なので、エピソード分けせずに1つにした方が良かったのでは?と言うのが個人的な感想ですが…そうするとエピソード3が異質な感じで浮いている様にも見える…難しいなあ。
個人的には林海象監督の描く作品は結構好きですし、ハードボイルド風でありながら、原発と被災地を描く作風は林監督の新たなる挑戦かと思いますが、なかなか惜しい。
でも、妙に引っ掛かる作品でもありますので、ご興味がありましたら如何でしょうか?
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