劇場公開日 2021年4月9日

「出来の悪いコントのような作品」街の上で 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)

2.0出来の悪いコントのような作品

2021年4月13日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 若葉竜也はその容貌のせいかチンピラみたいな役が多いが、仲野太賀が主演した「生きちゃった」では主人公の友人武田をナイーブに演じていて、とてもよかった。しかしそのあとの映画「朝が来る」ではまたチンピラ役だった。
 本作品は「愛がなんだ」の今泉力哉監督作品。「愛がなんだ」は失礼ながら「赤ん坊が泣いているような映画」だと評させていただいた。登場人物の若者たちが、暴走する自意識とつまらないプライドに動かされて思いやりに欠ける言葉をぶつけ合う群像劇で、星2つが限界だった。何故か観客は若い女性が多かったことを憶えている。本作品も同じように若い女性客が多かったので、鑑賞前から悪い予感がした。
 本作品の若葉竜也は繊細な演技をしていたが、台詞があまりにもチープで、せっかくの若葉竜也のいい演技がまるで心に響いてこなかった。「愛がなんだ」と同じように、本作品の登場人物の若者たちは互いにプライドを傷つけ合おうとするばかりで、愛がない。共感はあるが愛がないのだ。そして共感を愛だと勘違いしている。同じ花を見て美しいと思うのは共感であって愛ではないのだ。しかし登場人物の誰もそのことに気づかない。
 ときには同じ花を見て美しいと思わない人もいるだろう。本作品の登場人物はそういう人を排除する人たちだ。「思わないんだったら別にいいよ」「別にいいよってなんだよ」等々の台詞がすぐに思い浮かぶ。若者たちによって日常的に使われているであろう台詞である。本作品には非日常的な部分が一切なく、すべてのシーン、すべての台詞が日常的だ。

 日常的な台詞が悪い訳ではない。しかし映画や小説は「異化作用」といって、これまで普通に受け止めていたことに改めて別のスポットライトを当てて違う見え方をさせることで、人生の真実や世界の真相の一片に迫ろうとするものだ。観客や読者はときに不安になりときに恐怖を感じながらも、新たに示されたものの見方によってこれまでと違って見える世界を理解しようとする。ホラー映画もいい。コメディもいい。トラジディも文学作品もいい。どんな作品でも「異化作用」があれば心を揺さぶられる。
 本作品のジャンルがコメディになるのか青春群像劇になるのかわからない。登場人物は日常的で当たり障りのないセリフを喋る。確かに自分たちも普段使っている言葉だから登場人物に共感はできるだろう。しかし感動はない。胸を打たれる、心臓を鷲掴みにされるといった言葉で表現されるような感動とは、程遠い作品である。感動のなさは「異化作用」のなさに由来する。
 本作品をコントだと言ってしまえば言えなくもない。しかしそれにしては間延びしすぎてテンポが悪く、台詞はLINEのスタンプのようで底が浅い。今泉監督は青春を描きたいのかもしれないが、青春は心のうちにカオスを抱えたドロドロしたもので、本作品の登場人物のようなプライドバカ、共感バカには表現できないと思う。本作品も星2つが限界だ。

耶馬英彦
耶馬英彦さんのコメント
2021年8月17日

みんながいい映画だと言っているのに批判するとは何事だ!という精神性は、戦時中に他人のあら探しをして、非国民だ!と密告した精神性に通じる。

耶馬英彦
エヴリマンさんのコメント
2021年4月15日

映画に求めるものが多様なら、圧倒的に多数がいいと感想を持つ映画とならない場合もあるのではないでしょうか。
高評価のレビューが多い中でしっかりと作品を批判したこの方は立派だと思います。

エヴリマン
nsebisuさんのコメント
2021年4月13日

言いたいことはわかるけど
圧倒的な多数の観客はいい映画だったという感想になりますよ
映画に求めるものは人それぞれ多様ですから

nsebisu