「人間関係の機微が浮き彫りにならないこそばゆさと浮き彫りになった時の凄まじさ!」街の上で わたろーさんの映画レビュー(感想・評価)
人間関係の機微が浮き彫りにならないこそばゆさと浮き彫りになった時の凄まじさ!
大傑作です。映画の上映中、特にラストの作品の根幹に関わるようなシーンでここまで笑いが起こってる映画はこれまでになかった。大きな展開はないんだけど、確かに物語は動いている。当人達にとっては大きなことだったりもする。変わってしまった街並み。確かにあった感情。確かに今も存在している登場人物。余韻もバッチリ残る素晴らしい作品でした。
今泉監督の映画は、「愛がなんだ」から知ったにわか。オールタイム・ベストに入る衝撃的な出会いだったんですけども、何が一番驚いたって、感情のズレや人間関係の機微が浮き彫りにならなかったときのこそばゆさと、浮き彫りになった時の凄まじい衝撃をリアルに表現していること。演者の演技を信じて、言霊ののったセリフを紡いでいるなと思ったし、それをどこか俯瞰的な目線で見させてくれる撮影の仕方(ワンカット、画作り)も素敵だなと思いました。
そこから、「mellow」「パンとバスと二度目の初恋」「his」「あの頃。」を観ました。どれも好きな作品です。共感というより叫喚したくなる、生きるのって希望もあるけどしんどい部分もあるよなって思わせてくれるのが良いですね。他の過去作も早いとこ観たいです。
さて、本作。あらすじを見ただけでは、何が起こるか分からないというか、掴みどころがない感じですけども、やっぱり“存在”がテーマなのかなと思いました。
例えば、自分が発する言葉って、口にした、放たれた途端に受け手によってその解釈が分かれたりするし、時間が経つとその意味合いが変わってきたりすることってあるじゃないですか。このズレこそ、会話や人間関係の構築において、厄介だし面白いし危ういんですけども。この作品にはそうした脆さが見事に表現されています。
決定的なネタバレにならない程度に言うと、若葉竜也演じる青が穂志もえか演じる雪にフラレて、古川琴音演じる冬子に余計なことを言ってしまったり、萩原みのり演じる町子に自主映画に出演してほしいと言われたり、中田青渚演じるイハと意気投合したり、特別出演する成田凌演じる登場人物が上手いこと絡み合ってくる、最終的には青と〇〇という関係がより多面的になってくるというお話。下北沢という狭い世界にいながらも、主人公の世界は決定的に広まっていく。
途中に出てくる古着屋に買いに来る男女二人の関係、警官とのやり取り、バーでのやり取り、それぞれ見せ場があって、心に刺さる言葉があって、意味があるようでないような気もする素敵な余韻。最高です。
どの演者も人間力と顔力があるなーと思いました。どうやって見つけてきたんでしょうって人もいました。「君が世界のはじまり」でも好演していた中田青渚さんが特に良かったですね。とあるシーンでたぶん噛んじゃったところを採用してるのもリアルで良いですね。
自主映画撮影に向けての練習のシーンや、実際に撮影するシーンは、いわゆるメタ的な構造になっていくわけですけど、そこでの若葉竜也の演技の使い分けがもう本当に凄くて笑っちゃいました。
こういう人間関係や会話のズレのややこしさも悪くないなと思わせてくれるラストカット。ビターな終わり方でしたね。