劇場公開日 2020年6月12日

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ホドロフスキーのサイコマジック : 映画評論・批評

2020年4月28日更新

2020年6月12日よりアップリンク渋谷、アップリンク吉祥寺、新宿シネマカリテほかにてロードショー

※オンライン映画館「アップリンク・クラウド」にて先行配信中

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ホドロフスキーのアートが人々を救う瞬間の記録

なんと妖しげなタイトルだろう。

「ホドロフスキーの」の時点で映画ファンにとってすでに(良い意味で)妖しいのに、さらに「サイコマジック」という謎の単語が付いている。生半可な気持ちで観ては心が屠られる、そんな直感が湧いた。

サイコマジックとはホドロフスキーが独自に考案した心理療法で、言葉を用いて患者を治療する精神分析とは異なり、行動させることで無意識化のトラウマに向き合わせるものだ。例えば、母に愛されなかった女性には、へその緒を模した糸で本人と女性役の人間とを結び、擬似的な出産シーンを演じさせる。父親から虐待されて育ち自殺まで考えた男性には、身体を土に埋め、その上に肉を撒きハゲタカにたからせる。死の疑似体験を経た男性は生まれ変わったように晴れやかな笑顔を浮かべる。心理療法に演劇のメソッドを取り入れる「ドラマセラピー」に近いものに思われるが、そこはホドロフスキーなので相談者に課すシーンは複雑かつ幻惑的だ。

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出演者は実際にホドロフスキーのもとに相談に訪れた人々だが、これは医療行為ではなく、あくまでこれをアート活動の一環であると言う。つまり、アートが人間を救えるという事実をこのドキュメンタリーは記録しているのだ。アートとは時に人の生存のために必要なのである。

「こんな悪趣味なものがアートなものか」と思う人もいるかもしれない。しかし、そもそもアートとは人の心に衝撃を与えて変化を促すもの。そして、一般的には悪趣味としか言えない方法でないと救われない人々がこうして現にいるのである。

これがアート活動であるがゆえに、本作で描かれる行為は、ホドロフスキーのこれまでの映画の内容ともシンクロする。随所に過去作品の断片が挿入されるのだが、それを観て、私は彼の映画を通じてサイコマジックを施されていたのではないかと気付かされる。彼の映画のお陰で私は生存できていたのかもしれない。そんなことを本気で思わせる作品だ。

杉本穂高

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