「口笛吹こう 恋とブギのメロディー」グッドバイ 嘘からはじまる人生喜劇 KinAさんの映画レビュー(感想・評価)
口笛吹こう 恋とブギのメロディー
人生とは、上手くいったり上手くいかなかったりの連続。どうしてこうもおかしく愛しい物語なの!
強引で楽しい超展開ラブコメディ。
太宰治の未完の遺作を基にした戯曲が原作とのこと。
いかにも太宰!と言わんばかりの前半から、一気に急カーブを回って加速していく後半。
予測できない人生のように振り回されて振り回されて、本当に楽しかった。
とにもかくにも、キヌ子なのである。
この作品の主役は誰が何と言おうと、キヌ子なのである。大好き。
勢いよく捲したてる彼女のファーストカットからもう完全に惚れてしまった。
逞しく、小汚く、金にガメつく、頭は悪く、品は無く…いじらしく、切なく、愛おしく、美しい人。
キヌ子がキヌ子なりの幸せを手に入れますように、と、そんな想いを持ってこの映画を観ていた。
恋をしなくてもいい、男と一緒になることが幸せと決まっているわけじゃない。
ただ、気を抜いて幸せを感じる時が彼女にも有れば良いな、と。
男とか女とか、そういう枠は一旦抜きにして。
彼女の仄かな想いは、揉み合いの際にしばし固まったあの一瞬で伝わってくる。
泥だらけのモンペ姿で働き回りつつ色とりどりの洋服を綺麗に持っているように、ガサツな振る舞いの中に宝物みたいにしまい込んだその想い。
好きな人に好きな気持ちをどう伝えて良いのかわからず、距離の近さからどうしようもなく、諦めて不器用に隠し持ってみせること、ちょっと思い当たる節もあるじゃない。
昭和の恋愛観が強いなと感じる部分も少しあったけれど、恋をする人間の心の内はいつの時代も変わらないのかもしれない。
対して、田島の存在感のユルさは気になった。
とにかくヘタレでだらしない、太宰治をさらに弱々しくしたような、所謂「モテるダメ男」。
田島の目的や想いがあんまりにもフラフラしているので、映画の軸も少しブレかけていたように思う。
まあそこを「キヌ子」というキャラクターの良さが挽回するので許せてしまうんだけれども。
そういうとこ!そういうところだぞ!なあなあにして好きにさせてしまうとこ!田島さんよぉ!
側から見たら相当不健全な集いのシーンが好き。
アイドルファンのオフ会みたいなテンションで語り合う様子がなんとも荒唐無稽で面白かった。
好きな人についておしゃべりするの、楽しいよね。わかりみが深いわ〜。
さりげなく長回すカメラワークが印象的。
元が舞台であることも意識しているんだろうか。
「グッドバイ」の言い方も劇場的で、一々グッと来るじゃない。
衣装の力を強く感じた。
男性陣も女性陣も全員素敵な衣装で、その人と成りが装いからダイレクトに伝わってくる。
着るものには人間性が出るなあと、改めて思った。
特に印象的なのは、清川の変貌。
ヨレヨレで裄丈の合っていないシャツをアームバンドで無理矢理留めていた彼。
彼が後半で着ていた白のスーツは強烈だった。
金を手にして生まれてしまった傲慢さを強調し、その変貌を哀れむような表情を持ったスーツだと思う。
衣装と言えば、一つ猛省していることがある。
私が映画を観る時の鉄則の一つとして、「お洒落をする」というものがある。
今日は久しぶりにヒールの革靴を履いて、お気に入りのブラウスにカラフルなスカーフを締めて、黒いワイドパンツとロングコートで格好良いイメージで着飾ってみた。
しかしキヌ子のファッションを目にした瞬間、激しく後悔することになる。
どうしてビンテージのワンピースを着なかったんだろう!!どうして大振りのイヤリングを付けなかったんだろう!!
キヌ子は!あんなにかわいいワンピースを着て映画館に向かっているのに!!
いや別に、今日の服装だって絶対に可愛いし気に入ってはいるんだ。
だがしかし、「久しぶりにワンピースを着ようかな」と思ったにも関わらず、ストッキングを履くのが面倒だな〜とパンツスタイルに甘んじてしまった。
そんな若干の後ろめたさがあったので、余計に悔しくて。
本日の教訓:衣装が良さげな映画を観る時は、作品に合わせた装いを怠らないこと。