「自我の希薄な主人公」映画大好きポンポさん P2さんの映画レビュー(感想・評価)
自我の希薄な主人公
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目上の人の意見を妄信して作った映画が大成功してしまった主人公。その映画で気に入ったところはといえば、「上映時間が90分」であること。この主人公には決して明るい未来は訪れないのだと実感させられる。
主人公は現場で見聞きしたあれこれを愛用のノートにビッシリ書き込んでいる。 それを水溜まりに落としてしまえば、新しいものに全部書き写すほどの偏執ぶり。彼にとってはあのノートが御守り/聖書なんだろう。
ポンポさんや周りの人々の意見をすべて『正しい事』として受け入れてしまうのも良くない癖だ。ペーターゼンさんが言うように「映画の撮り方に正解なんぞ無い」わけで、映画人ごとに意見の食い違いがあって然るべし。だが主人公は他人に一切の反論をしない。身の回りに目上の人間しかいないことも一因だけど、本音を言ってしまえば主人公にとってそんな状況が何よりも心地よいのだ。
主人公が自己防衛のために閉じこもっている殻のようなものが、打破すべき障害ではなく肯定的に描かれているのがこの作品の特徴。ラストシーンで自ら「一番気に入ってるのは、上映時間が90分ってところです」と言っており、この物語を通じて主人公の心の殻が一層分厚くなってしまっている。《ニュー・シネマ・パラダイス》の立つ瀬がないよ。
主人公が業界に飲み込まれていく様をただただ見届ける、なんとも苦しい作品です。
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