「テーマはありきたりだが、スタッフの力量が俊逸。」映画大好きポンポさん 猫シャチさんの映画レビュー(感想・評価)
テーマはありきたりだが、スタッフの力量が俊逸。
既に口コミで評判が広まっている本作ですが、個人的には、ストレートに楽しむには多少なりともハードルがあるなと感じました。
映画人が主役で、映画内映画を作る・・自己言及的な作品ゆえに、「映画とはこうなのだ」という押し付けがまずあります。しかしながら、ぽんぽさんの原作者は映画人ではないため、やや言説が陳腐だったり、綺麗事めいていたりするので、まずそこをスルーしないといけません。
「何かを諦めなければ映画は作れない」とジーン君はいいますが、スケジュールは守らないわ、追加予算で撮影し直すわで、実はぽんぽさんの傘(スカート)の下で、すっごく恵まれた環境で映画を作らせてもらっているんですよね。なにかを「捨てる・諦める」っていうテーマと作中の内容がちょ~っとブレているのも気になるところ。
テーマ性を明確にし、それでいて映画に関わる有象無象のネガティブ要素(ある種のリアリティ)を不問とするため、「ぽんぽさん」という特殊なキャラ、「ニャリウッド」という架空の舞台設定がなされています。個人的にはありだと思いましたが、これもまた人を選ぶ要素のひとつかもしれません。
で、あらためて本作について簡潔に言ってしまうと、これ、たまたま題材が「映画」なだけで、ようは「冴えない少年が自分の夢を叶える熱血青春もの」なんですよ。映画は飾りです。音楽でもスポーツでも、なんだって成立するお話です。
先に述べたようにある程度リアリティを排除したうえで、ようは「夢の成就」と「人生の他ごと」をトレードオフする、その覚悟のさまを描いている。非常に贅沢な作画で、極めてテンポよく進むため、映像体験としての快感度が半端ない。上映尺を絞ったことでこのテンションはラストまで続きます。カットとカットのつなぎ、シーンの時系列をザッピングし、結果を先に見せ興味をひいてから過去に巻き戻るなど、かなりアクロバティックな事をやっていますが、これはこの監督のお家芸。映画の構成自体が「編集」の妙で成り立っているのが面白いですね。
ラストカットを見たとき、「え、これ90分でやりっきたの?」とびっくりしました。すごい密度です、ほんと。
監督の平尾隆之さんはマッドハウス出身で、以前はufotableで演出をしていました。「空の境界・第五章 矛盾螺旋」で映画初監督を経験。「まともに映像化したら5時間は切らない」と言われた畢生の大作を、2時間弱にまとめあげる手腕を見せます。ジーン君の鬼気迫る編集ルームでの描写は(このカットの演出と処理がまたすごい)、平尾さんご自身の心象風景だったのかもしれません。本作の監督として、これ以上の人選はないですね。
同じく監督作の「魔女っこ姉妹のヨヨとネネ」も本作に通じるテンションの高さとポップさ、感情を揺さぶる演出があって、是非見ていただきたいところ。
結局、ジーン君の映画がニャカデミー賞を受賞する頃、ぽんぽさんはさっさと別の作品に帯同して彼の元から居なくなってしまいます。捕まえたと思った途端、逃げ水のようにするりと遠ざかる。それもまたクリエイターと夢の関係性の暗喩かと。
ぽんぽさん=映画という寓意性はやや分かりやす過ぎるきらいはありますが、嫌いじゃないです、こういうの。