「かわいい映像にプロ目線の脚本」映画大好きポンポさん 映画読みさんの映画レビュー(感想・評価)
かわいい映像にプロ目線の脚本
映画の聖地ニャリウッドで、映画を一生懸命作る人たちモノ。
そして映画を作る映画ものの中では
「映画は、長いよりも短い方がいい」
という原作者の哲学が押し出されていて、作品の完成度を高めるために
「無駄なものを見極め、切り捨てる」
「少し効果的というぐらいのものも見極め、切り捨てる」
という新人監督の試練と成長が描かれている。
ただ繋いだだけの冗長なシーンと意識的に切り詰めて効果的になったシーンを対比的に見せてくれて、「実はこんなに違う」を教えてくれる啓蒙的な要素もあり。
良い作品を作るためにその実非情な決断を迫られているのだが、全体的にコミカルな作風に乗せているため重くなりすぎず、しっかりエンタメの範疇に収めつつ主題とドラマを見せてくれる。
あるシーンを切り捨てるのは、普通に感動させにいく物作りモノならまずしないこと。
だが本作では、ジーンが本物になった瞬間という象徴的なシーンとして成立していて、プロはもちろん一般観客でも「さすが」と思わせるだけのセットアップがある。
そういうわけで「プロが考える、かっこいい物作りのプロの姿」を遠慮無く打ち出した映画なので、現場の壮絶性が初めての人にはチクチク要素が随所に感じられ、感動はするものの感激まではいかないかもしれない。
(みんなで頑張って作ったから花丸、では回らないのだ。みんなで頑張って作るのは当たり前で、それが作品的商品的に効果的かどうかの次元で本作は全キャラクターの意識が共有されている)
また、この映画自体も「無駄はとにかく省いた方がいい」で作られていて、その「無駄」の判定は映画をこよなく愛してきた熟練の作者基準なので、
・1つの場面が多くの情報を兼ねる激しさ
・シーンの切り替わりの激しさ
・言葉で説明せず、描写で語り続ける濃密さ
は、作者レベルの玄人でないと「ついていくのが精一杯」になりかねないかも。
「ハマりきる(感情が確定され自覚される)前に、次のシーンに行ってしまう」というか。
いわゆる
「感性が磨かれきっており頭が非常にいい監督・原作者が、彼らの高い能力基準で最高のものを作った」
という作品になっている。
ちょっと、マスに向けて打ち出せるスピード基準を超えているかなと。
映画漬けのファンやプロのクリエイターにとっては「これだよこれ」と堪能させてくれる作品であることは間違いないと思う。
また、初回で「そこそこ面白かった」の人も、映画をさらに観続けて数年後にまた観たらかなり違うかもしれない。
自分としては、かなり楽しませてもらえた作品だった。