「映画ファンに捧げる90分、そして時間の呪縛。」映画大好きポンポさん そらのばさんの映画レビュー(感想・評価)
映画ファンに捧げる90分、そして時間の呪縛。
アランのプレゼンシーンに涙し、編集するジーンの背中を押すナタリーに涙した。
この映画は間違いなく快作でありながら、観賞後はどこか物足りなさを感じた。
ーーいや、物足りなかった理由は何となく分かっている。良い点がどこも少しの悪い点を持ってしまっているからだ。
まず、この作品で語るべきなのは「アラン」というキャラクターとアランを主軸としたサブプロットだと思う。
主人公であるジーンは「映画以外の何もかもを捨てた結果、映画監督になれた」人物であり、途中で再会するアランは「それなりにうまく生きてきた結果、何者にもなれなかった」人物である。この対極な二人のキャラクターに挫折と成功の道を歩ませることによって、この作品は多くの人が共感を覚える作品に仕上がっている。
私自身、どちらかというとアラン側の人間であると同時に、ジーンに憧れる(でも、何もかもを捨てることができない)人間であるが故に、アランが前に進み、ジーンの助けになることに救済を覚えた。
だが、アランは原作にいないオリジナルキャラクターの宿命か、セットアップが弱く、冒頭シーンで若干登場はしているものの、飛行機内でこれ見よがしに、その内関わってくるキャラクターですと登場する。明らかにサブプロットの為に存在するが故に、シナリオから浮いていた。
なんせアランはパンフレットの表紙にもいない。
次に編集という題材と、本作の編集(カッティング)についてだ。
映画を題材にしてかつ、長い作品は辛いと言い切るポンポさんがいるからこそ90分にどうやって収めるかというのをジーンだけではなく、本作でも試されていた。
この映画の前半では、短い時間での転換を多用している。3拍でのワイプ、飛行機の軌跡による転換、マッチカット。マッチカットを多用していた今敏監督を彷彿とさせるものがあったが、それほどの巧みさはなくーーというよりは、キャラ紹介の多い序盤の中弛みをコメディー調で駆け抜ける為に意図的に過剰にカットの繋ぎを密にしているように感じた。そこに息苦しさを感じずにはいられなかった。
一方で、映画の後半のMEISTERの映像とジーン達の世界をマッチカット(と呼んで良いのだろうか?)で繋ぎ、二つの世界が同調して一体化していく様を描く演出は見事と言わざるを得なかった。
このように、本作は「後半の良い点は前半では悪い点」という印象が強く、全体の完成度で考えると、このような評価になった。
映画ファンに対し、確固たる意思を持って90分を贈った一方で、その90分という呪縛に囚われすぎていないだろうか。
原作のポンポさんの言葉を借りるのであれば、「私90分の映画が好きだなんて言ったっけ?」である。
ディレクターズカット版があったら是非見てみたい。その時は是非とも90分の呪縛を取り払って貰いたい。