「王の重責と孤独」キング しずるさんの映画レビュー(感想・評価)
王の重責と孤独
シェイクスピアの『ヘンリー5世』を下敷きにしているが、大分オリジナルな設定や解釈をしているので、歴史背景だけ押さえた全く別の物語として見て差し支えない。
若干愛国的な香りのする原作に比べ、国家というものの危うさ、指導者の苦難、戦いの虚しさを、重々しく暗く描いている。
放蕩時代の親友にして年上の良き助言者というフォルスタッフの立ち位置や、毅然とものを言うキャサリン妃など、現代的で大胆な変更もあり、共感し易い。
若く武芸にも長けながら、平和を好む繊細な王が、重責と孤独に苛まれ、終始憂鬱で寂しげな表情で奮闘する様を、ティモシー・シャラメが好演。
中世世界の薄暗い照明、武具や衣装、武勇など意味を成さないぐちゃぐちゃドロドロ殺し合いの集団戦闘、時代劇らしいもって回った台詞回しなど、全体に重くリアルな表現で、歴史物好きには堪らない。
歴史的事項や周辺諸侯の詳細が説明されないので、当時の英仏関係やイギリス文化の知識が無いと、多少解り辛い所もあるかも知れない。
望まぬままの突然の王位継承。平和を望みながら、国民感情や宗教的思惑、諸侯の損得争いでままならず、迷いと恐れに揺れつつ開戦、出兵。辛くも勝利を納めるが唯一信頼のおける親友を失い、成し遂げた偉業も策謀の結果と知る。その果てに、結婚相手の手を取り告げる、「多くは望まない。ただ本当の事だけを語ってくれ」の一言は、物語の描いた孤独と不信の苦悩全てがここに集約された、哀しくも完璧な台詞だった。脚本家を絶賛したい。
それを最後に暗転、王の業を表すかのように『THE KING』の題字が表示され、終幕していく演出もいい。
画面の暗さ、合戦シーンの迫力とえげつなさなど、大画面でこそ見易い要素もあるように思う。
配信のシステムについては全く知識がないが、スクリーンで見る機会に恵まれて良かった。