劇場公開日 2021年5月28日

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「壱の章で力尽きたか?脚本」HOKUSAI pipiさんの映画レビュー(感想・評価)

2.0壱の章で力尽きたか?脚本

2021年7月2日
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鑑賞方法:映画館

単純

寝られる

萌える

壱の章は面白かった。
もう、完全なフィクションと割り切って、名優達の演技を楽しむ事に徹したからだ。
感覚的には、ウルトラマンAやタロウにウルトラ兄弟が勢揃いする話と一緒。
或いは、野球で言えばペナントレースではなくオールスター戦。
(ルネサンスと対比したいところではあるが、ボッティチェリ&ダヴィンチの庇護者は圧政の悪名高きボルジア家ではなくフィレンツェにて隆盛を極めたメディチ家だし、ラファエロ&ミケランジェロを支援したのはローマ教皇ユリウス2世だし。
本作冒頭から最後まで描かれる「権力(江戸幕府)による芸術の迫害」とは正反対だしな。
ダヴィンチ達とラファエロ達の間には30年もの開きがあるので彼らが一堂に会するとも考えにくい。
やっぱり歌麿・写楽・北斎・蔦屋揃い踏みシーンはせいぜいウルトラ兄弟だわ)

まぁ、これくらい割り切った姿勢で臨んだので、壱の章だけは楽しめた。とは言え、阿部くんの独壇場とも言える。玉木宏も良かったけど見せ場というほどのシーンが多くはないので演技力が勿体ないままに早々の退場と相成ってしまう。(主役は柳楽なのか?阿部くんなのか?(笑))

ピンチをチャンスと捉える強さ。惚れますね〜。男たるもの斯くあって欲しいものです。
北斎の絵を褒め、世界への夢を語り、今日は良い酒が飲めると言った次のシーンが葬儀という、このテンポは非常に好きです。

でもねー。こーゆー作風、若い頃に随分見かけたぞ?そう!プロではなくて高校・大学の文芸部や漫研が作成するような同人誌。
歴史考証も史実の研究もロクにせず、噂話レベルの伝承やら作品数点見ただけでイメージを勝手にでっち上げてストーリー創作しちゃうやつ。

弍の章はまったく不要だと思うし、歌麿の手鎖処分は「信長&秀吉以降の大政治家」を描く事が禁止だったのに大作の秀吉画を仕上げたからだからね?美人画や風俗画はそこまで弾圧してないよ。
滝沢馬琴から柳亭種彦に繋げる狙いみたいだけど、わざわざ章立てする程じゃない。

参の章、四の章。いきなり70代って唐突過ぎる。
歳の頃を言えば、大体、壱の章からおかしい。北斎のデビューは19歳。勝川派を破門されるのは、それから15年も過ぎた34歳。その時点ですでに狩野派も中国絵画も習得している。北斎の画号を使い出したのは45歳。
ついでに写楽は北斎の3歳下なだけ。写楽が描いたのは、北斎破門に重なる年の僅か10ヶ月のみ。
もう、時代考証、年代考証言い出すと壱の章そのものが「大嘘」なんですよね。北斎にか〜な〜り!失礼かも。(桜井 侑斗 風に読んでねw)

参・四は、田中泯の見事なまでの怪演で保っているだけ。田中泯、おそらく北斎が80代の時に描いた自画像をモチーフにしてるだろうなぁ。表情や雰囲気、間違いない(笑)
藍のシーンは演出過剰じゃないか?
元々、脚本がああなのだとしたら、田中泯にか〜な〜り!失礼じゃないか?

脚本&北斎の娘「お栄」役の河原れんって何者?と、思わず調べてしまったら、スターダストプロモーショングループ総帥の細野義朗の奥さんですってぇ?歳、30は離れてるよね?
なるほど、錚々たる名優達を容易に使える理由はこれか。
金も役者も思いのまま、若妻(40歳が若いかは知らんが)の希望なら好きに叶えてやる、ってとこなのかな?

そういう事なら言っちゃうけど、冒頭の焚書は「天保の改革」の時じゃないか!北斎が82歳の頃だよ?
飢饉で人が毎日200人近く死んでいくんだから贅沢禁止を訴えるのも当然。しかも絵師達は言う事聞きやしない。
もう少し制限緩やかだった寛政の改革時には歌麿も判じ絵使って平気で美人画描いたしね。(遊女や歌舞伎役者の絵じゃなければOKだったので、美人画に見せかけて暗号で遊女の名前を書いた)

天保なんて、絵師達は皮肉たっぷりの絵で規制回避するわ、お上に呼び出されも注意受けるだけかせいぜい罰金刑だよ。柳亭種彦は1番軽い譴責処分受けただけ。現在で言えば始末書提出程度。しかも、この時60歳。
脚本家は、水野忠邦に謝れ!

あまりに変なので、今ネット検索したら河原れん氏のHOKUSAI解説インタビュー見つけた。生首図が描かれたのは種彦が亡くなった年だから、種彦の首だろうと「作家として直感的に思った」って・・・。いや、種彦は24歳から60歳まで戯作者として一世風靡して、別に幕府も咎めていないし。
天保の大飢饉の時だけ、老中が「偐紫田舎源氏」の執筆をやめさせただけだし。

映画の他のエピソードも、すべてロクに調べもしないまま、「河原氏が「絵と浅い知識を自分勝手に結びつけて、憶測しただけ」の事ばかりじゃないか!
なんか、だんだん腹が立ってきたぞ?
それなのに、宣伝記事には
「歴史的資料を徹底的に調べ、残された事実を繋ぎ合わせて生まれたオリジナル・ストーリー。」
なぁにが「徹底的に調べ」だ!
いいかげんな仕事ぶりにも程があるわ。

弍の章以降、珍しく眠くなってしまった。(映画鑑賞中に眠くなる事は滅多にないのだが)
起きていられたのは、俳優陣の名演技のおかげに他ならない。
演技には星5をつけたいのだが、実に総合評価には迷う本作であった。

pipi
レモンブルーさんのコメント
2021年7月4日

pipiさん 非常に造詣の深い考察を頂きまして、ありがとうございますm(__)m。コメントは私のレビューの方に 後ほどさせていただきます

レモンブルー
レモンブルーさんのコメント
2021年7月4日

途中まで書いて送信してしまいました。
私が特に違和感が有った「生首の図」と種彦の関係は やはり そういう事でしたか!種彦の処分が軽いものだとすると 本当に 全く関係ない事は明白ですね!これもレビュー書いてだいぶ後に知ったのですが、「生首の図」に描かれた柄杓の意味がわかりました。当時、切腹による斬首(ある程度名誉?の死)された首は柄杓の紐で胴体と結ぶという習わし?が有ったそうです。(罪によって斬首された首にはそのような事はされない。)つまり、この点からみても 「生首の図」と種彦の死は全く関係ない事になります。そもそも、種彦と北斎は 当時 繋がりは無かったハズなので…。本当に 何処が「調べあげた」ですよね!
お榮の重要さも理解してないくせに!(映画の中で脇役過ぎる!)
私の心配は まさかこの映画 海外に出すつもりじゃないでしょうね?という事です。絶対に やめて欲しい❗です。
pipiさん 本当にありがとうございます!

レモンブルー
レモンブルーさんのコメント
2021年7月4日

pipiさん HOKUSAI ご覧になられたんですね!そして やはり 私と同じように感じておられて 嬉しいです!というか 河原さんのインタビュー記事読んでないですが、pipiさんのレビュー読んで ますます腹が立ってます!なるほど!やっぱりね!全て浅はかな憶測に基づく脚本だったわけですね!pipiさんは美術史にお詳しいんですね。歌麿に関してはあまり史実は知らなかったので 勉強になりました。
本当に 北斎に対して失礼にも程が有ります!河原さんは時代考証を専門家に委ねなかったのでしょうね。全く自分本位の解釈で、よくも 北斎を侮辱して 世間に嘘を平気で広めてくれたものです!
私は もう最初から 違和感有りまくりでした。お榮の母も北斎の二番目の妻で、お榮が生まれる前に他に既に子供は何人かいたわけなので、北斎と妻の子供誕生に纏わるエピも 白々しい(笑)
そして 北斎がプルシアンブルーを頭から浴びるシーン …うっかりレビューに書き損じてしまいましたが、あれも有り得ないと思います!貴重な それも 待ちに待って得られた青色の絵の具を あんなふうに粗末にするなんて 絵描きは絶対にするものか!と思います!しかも…最近知ったのですが、あの「絵の具を浴びる」というのは 田中泯さんのアドリブだった!と知り、その場に居たスタッフが それに対して拍手して賛成したとの事。もう…ガッカリです。田中泯さん…好きだったのに。もっと北斎を研究して欲しかったです。

レモンブルー
ゆり。さんのコメント
2021年7月3日

私は史実にアレンジを加えるのは良いと思いますが、辻褄は合わせて欲しかったです。時間の割り振りが良くなかったですし、エピソードが極端でした。

ゆり。
bionさんのコメント
2021年7月3日

 河原れん氏がコネと金の力で映画を作ることに関しては、お好きにどうぞって感じです。演技は、そこそこでした。罪なのは面白くないことです。僕の基準はときめき度なので😸
 ここまで役者をそろえる力があるんだったら、有能な人に脚本を任せて欲しかったですね。

bion
NOBUさんのコメント
2021年7月3日

気になって、杉浦日向子さんの「百日紅」を読み始めたら止まらなくなってしまったNOBUです。この映画サイトの良い所は、映画に対する解釈は違えど知性溢れる方々から触発される知的好奇心の発露だと、勝手に思っています。
明日じゃなかった今日は午前中だけ、会社に行ってから"企み"を実行します・・。(今日、ズルして出張直帰で映画館に行った為。小学生の言い訳みたい・・)

NOBU
NOBUさんのコメント
2021年7月2日

今晩は。
”丁寧な調査と正しい知識理解の上で、文化的価値のあるフィクションを創作するならば意義を感じます。”
私は、杉浦日向子さんの著作が好きなので、”「百日紅」も好きです。”
で、何が言いたいかと言うと、「百日紅」はフィクションです。
今作もフィクションです。
 ですので、出演した演者の方々の演技を主に、私は今作を大変面白く鑑賞しました。
 年老いた北斎が、求めていた藍色を見出したシーンの田中泯さんの演技は、私は素晴らしいと思いました。
 只、”「歴史的資料を徹底的に調べ、残された事実を繋ぎ合わせて生まれたオリジナル・ストーリー。」”と言う文言は、如何様な解釈も出来るモノで、この辺りを許容するか、しないかで評価は分かれるのだと思います。
 評点の低さを観ると、私のような観方をした方は少なかったのでしょうね。
 あと、制作の裏事情(北斎の娘「お栄」を演じた河原れん・・)は承知していましたが、私は”しょうがないなあ、出たかったんだね・・”って感じで観てました。(ここも、人によっては意見の相違と言うか、否定的な人が多いですね。)
 それより、柳楽さんと田中さんの演技が特に素晴しかったなあ、と思った映画でしたね。
 映画って、絶対的名作以外は、”様々な要素により”観る側に多様な印象を与えるモノであるという事を他のレビュアーの方々のレビューを読んで思った映画でした。
 ちなみに、これが川原れんさんじゃなくって、奥山和由さんになるといきなり厳しいトーンになるだろう、NOBUです・・。

NOBU