劇場公開日 2021年5月28日

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「ほぼフィクションの青年期パートが冗長。田中泯の身体表現をもっと見たかった」HOKUSAI 高森 郁哉さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5ほぼフィクションの青年期パートが冗長。田中泯の身体表現をもっと見たかった

2021年5月31日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

知的

遅咲きの浮世絵師だった葛飾北斎の人生について、有名になり多くの弟子を抱えていた老年期は資料が多く残るものの、青年期の資料はほぼゼロだという。そこで本作は、柳楽優弥が演じる勝川春朗(のちの北斎)の青年期を創作し、いまだ画風を確立できず貧乏暮らしの日々や、当時すでに売れっ子の歌麿や年下の写楽と宴会に同席した際の焦りやこじらせ具合を描いており、特殊な天才の話ではなく普遍的な成長物語に寄せる意図はうかがえる。にしても、企画当初からダブル主演が既定路線だったのか、この青年期パートが全編のほぼ半分、1時間。これはさすがに長すぎた。

田中泯の老年期パートに入ると、有名な「富嶽三十六景」や「生首の図」の制作過程などで描写ががぜん活き活きとしてくるが、前半の青年期のエピソードが後半に効いてくるかと言えばそうでもない。だったら青年期をせいぜい3分の1程度に抑えて、そのぶん老年期パートで名画やユニークな北斎漫画などの創作の秘密に迫るとか、カメラアイの持ち主だったと言われる北斎からの見え方を凝った映像で再現してみるとか、もっと工夫のしようがあったのではないか。舞踏家でもある田中泯の絵を描いている時の身体パフォーマンスは素晴らしく、それゆえに、たとえば有名な120畳サイズの「巨大だるま絵」を描くシーン(原恵一監督のアニメ映画「百日紅 ~Miss HOKUSAI~」はさすが、この場面をしっかり描いていた)などがあれば、田中の全身を使った圧巻の身体表現を堪能できただろうにと惜しまれる。

俳優陣の演技や意欲的な映像も決して悪くないのだが、構成上のバランスの悪さが響いた。

高森 郁哉