「絶妙なバランスで描かれた傑作」ジョジョ・ラビット キレンジャーさんの映画レビュー(感想・評価)
絶妙なバランスで描かれた傑作
予告編をチラッと見た程度の知識で観賞。
つい数日前「リチャード・ジュエル」を観てサム・ロックウェルにしびれていたら、本作のオープニングに彼の名が…。あら、これは拾いものだ、と。
ところが、「拾いもの」どころではなかった。
戦争をコメディタッチで描くことって凄く難しいことなのだろうとは思う。特にナチスを用いると、「戦争」「独裁」の悪と合わせて「差別」も大きなテーマになる。差別はここ10年で考え方も世界的に大きく変動しているし、既に第二次世界大戦のヨーロッパを描いたコメディには「ライフ・イズ・ビューティフル」をはじめ、傑作がある。
しかし、本作はその課題をしっかりクリアしてくれた。
主人公の少年ジョジョの演技が凄い…ってことはひとまずおいておいて、戦争に巻き込まれていく彼を、決して「純真無垢な天使」としてではなく、子供なりの正義やエゴを持つ「一人の人間」として描いているのがまず素晴らしい。
そして、戦争を子供の視点で捉え、人と人とが殺し合う戦火の中でさえ、どこか現実味を欠いた演出。
この辺り、リアリティがあり過ぎると子供の視点を離れるし、ファンタジーに寄り過ぎると現実の厳しさが伝わらない。そしてあくまでコメディ。
その微妙なバランスの上に、一人の人間としてジョジョの成長や恋を見事に描き切っている。
これみよがしの「伏線の回収」って大嫌いだが、ここでは作中に登場する小さなピースが、物語を読み進める上で大きな意味を持っていたり、暗示として細かく機能していることに映画が終わってから気付かされる。
なんと憎たらしい(笑)。
…で、ジョジョ役の男の子。
映画監督の息子さんらしいけど、見事な演技でした。この難しい映画が魅力的なのは彼の力に拠るところは大きいよね。
そして、このラストですよ。
ドアを開け新たな世界へ歩み出す、年端もいかない少年ジョジョ。
作り手がここで彼に何か政治的なメッセージや、大人への第一歩といった分かりやすいテーマを背負わせるのかと思いきや、そうじゃない。そんなものはあくまで「大人の求める子供像」でしかない。
ひたすらに視点は子供のまま。
「(さあ、○○○を始めようよ。)」
うん。
それでいい。
観た後、心が軽く、温かくなる作品。
サム・ロックウェルやスカーレット・ヨハンソンなどハリウッドスターも出てる(また二人とも素晴らしいんですよ、コレが)のに、作品の注目度が低いのは非常にもったいない。
たくさんの人に観てもらいたいな。