おそらく映画ファンの中で、この作品を知っている人は少数だと思われます。
2017年に「ケアニン〜こころに咲く花〜」が公開され、医療関係者や医療に関心がある人を中心に見られ、いわば「医療の入門書的な作品」なのです。
私がこの作品を知ったのは、「ケアニン〜こころに咲く花〜」のスピンオフとして作られた2019年の「ピア~まちをつなぐもの~」からでした。
特に予備知識もなく“在宅医療と介護”をテーマにした「ピア~まちをつなぐもの~」を見た際には、「映画」と「教育用の広報映像」との違いについて考えさせられました。
正直に言うと「ピア~まちをつなぐもの~」の時は「映画」というより「教育用の広報映像」のような印象を持ったからです。
ただ、エンドロールでは、協力者(監修者?)として私の知人の名前が大量に出ていたりと(思わず笑ってしまいました…)、医療的な知識の面ではしっかりとしている作品です。
さて、本作「ケアニン〜こころに咲く花〜」では、(国の補助が大きく、安くて競争率の高い)特別養護老人ホーム(通称「特養老人ホーム」)が舞台となっています。
そもそもタイトルの「ケアニン」とは、「介護福祉士」のことですが、「介護福祉士」という言葉は堅苦しいので、「ケアする人」ということで「ケアニン」という通称があるのです。
まず、結論から言いますと、本作に関しては「教育用の広報映像」を超えて「映画」として成立していました。
ただ、いわゆる「映画ファン」のように映画を見慣れている人には少し物足りないかな、と思われます。そのため、映画ファン目線での評価は★★★くらいでしょうか。
ただ、「介護」や「認知症」について興味がある人には★★★★くらいの価値はあると思います。
そこで、評価は3.5にしています。
この作品は、「介護と経済効率性」について深く考えることができます。
例えば、少人数制の介護施設であれば、食事は本人が食べたいときに本人のペースで食べさせられたりと、「一人ひとりに寄り添う形の介護」ができたりします。
ところが、大規模な特別養護老人ホームのような形になると、「ルール」を徹底しないと事故が起こったりしますし、「経済効率性」が問われたりします。
例えば、オムツの交換は、本来の「自立支援」を考えれば、いかに自分で出来るようになるのか、が大切なのですが、「経済効率性」を考えると、「ルール」の下、定時に素早く「作業」としてオムツ交換を行うようになり、「自立支援」とは逆行する面も出る訳です。
このような「理想と現実の狭間にある大きな問題」は、普段の生活では、なかなか考える機会がありません。
それらの介護の本質的な問題などを本作を通して考えてみると、自分や、自分の家族の場合はどうしたらいいのか、など、いろんなことが考えられるようになると思います。
また、世界一の高齢化率を誇る今後の日本では「認知症」というのが非常に重要な課題になります。
この「認知症」についても種類があることなども、本作では触れています。
ちなみに「認知症」についても、まだ決定打となるような治療法は見つかっていません。
さらに言うと、大きな原因とされているものも、まだ仮説程度のもの(アミロイド仮説)だったりします。
ただ、「化粧療法」だったり、自分を取り戻す試みはなされたりしていて、それらは本作で知ることができたりもします。
特に「介護」や「認知症」について考える機会が欲しいと思っている人には、おススメしたい作品です。