「一気飲み」サラブレッド KinAさんの映画レビュー(感想・評価)
一気飲み
殺らなきゃダメだ。…ダメなのか??
冒頭からバチバチにキメてくるカメラワークに音に演者の表情、全ての演出が洗練されビシッと嵌っていて、1シーン1カットの全てに魅入られる。
非常に格好良い映画だった。
「無感情で優秀な模倣者」だと自称するアマンダと、静かに煮えたぎる負の感情を抱くリリー。
二人の対比、リズミカルな会話の積み重ね、徐々に本気度を増す親殺しの計画、不穏な空気の濃淡に常にゾワゾワさせられる。
異様なほどの緊張感に独特のテンポのギャップが面白い。
威圧的で抑圧的な継父のストレス、そして母親の空気の薄さよ。
しかし娘の気持ちを知ってか知らずか、「彼好みになりたい」と日焼けマシンに入る救いの無さよ。
でもきっと、殺さなきゃならんほどのものではない。きっと、客観的に見ると。
ただきっと、殺すより他に救われる道などなかった。きっと、主観的に見ると。
そもそも二人と二人の間にある価値観と目的に重きが置かれ、それ以外の人やモノゴトはかなりぞんざいに扱われている気がした。
それぞれの家族、周りの人、ターゲットである継父でさえ居ても居なくてもいいくらいの存在感。
観客の価値観や意見なんかもクソ喰らえと言わんばかりの挑発的な姿勢すら感じる。
唯一入るアクセントのティムがとても良い味だった。
だらしなくてチャラついたどうしようもない悪さで身を固めているけど、おそらく一番マトモな人。
どっちに転ぶのかわからない不安定さで、一時はどうなることかとハラハラした。
決定的なシーンの見せ方がまた秀逸。
ローリングマシン(?)のグオングオンという音が耳に刷り込まれて離れない。
状況的にあのラストは無理がある気もするけど、自ら選んだことだもんね。
歪な形の友情。…友情なのか?友情ってなんだ?
無感情ってどんな感じ?無感情なりに友達の意識はやっぱりあるんだろうけど。
むしろ無感情側の方が友達を想って言動を放つことも多かった気がする。
やたらと多い会話、手紙はもはや何を言ってるんだか惑わされる。
時折置いてけぼりにもなるけど、本筋は至ってシンプル。肉付けと味付けが上手い。
ショックシーンやスリルはもう少し欲しかったなーとは思いつつ、じわじわ身体に染み渡る衝撃の感覚はとても好き。
移入してガンガンに乗るタイプではなく、傍観でニヤニヤしながら見つめるタイプだった。
アマンダと対峙すると、全て見透かされるような気がして非常に不愉快な気分になる。リリーの大きな目が揺れる様子もどこか恐ろしい。
オリビア・クックとアニヤ・テイラー・ジョイ、二人の美しい人の共演が目に楽しかった。
どちらかというとアニヤの方が無機質な印象の顔付きをしているだけに、二人の役柄の違いがさらに面白く感じる。
そして、イェルチンみたいな人だなーと思ったらイェルチンだった。良い俳優だな。
ローテンションで淡々とした空気。
劇場内は静かな寝息のスヤスヤハーモニーで満ち満ちていて、その状況に笑いそうになった。
私も完全に寝不足状態だったけど、手を抓りまくって何とか落ちずに済んだ。