異端の鳥 : 特集
大好評の映画.com特別オンライン上映会 第6回は、
ベネチア映画祭を賛否の渦で包んだ
「異端の鳥」をお届けします
映画.comがセレクトした世界の名作を、オンライン上映会という形式で皆さまに直接お届けする試み、2021年の3作目は、ベネチア映画祭で賛否両論が巻き起こった「異端の鳥」の登場です。美しいモノクロ映像に乗せて描かれるのは、戦火を逃れたひとりの少年の、辛くて暗い苦難に満ちた逃避行。果たして、少年を待ち受けるのはどんな結末なのでしょうか?(構成・文/映画.com編集長 駒井尚文)
第2次大戦中の東ヨーロッパで、ひとりの少年が荒涼とした田舎を彷徨う
本編を見終わって非常に驚きました。前情報ナシで鑑賞したのですが、今まで見たどの映画とも似ていない、非常にユニークでアグレッシブな映画です。やや長めの2時間49分は、ひたすら重いけど安堵もある、複雑な余韻を残します。
舞台は東欧のとある国。時代は第2次世界大戦の1940年代。ひとりの少年が、田舎でひとり暮らしの叔母さん宅に疎開します。ところが、叔母さんが亡くなってしまったので、少年はひとりぼっちに。生きる糧を求め、荒涼とした田舎の地を彷徨うことになります。
土地の人とは、肌の色も目の色も違う少年は、よそ者として冷たくあしらわれ、酷い仕打ちを受けます。時には優しく接してくれる大人とも遭遇しますが、安心できる生活は長くは続きません。少年の辛苦と不運の連続は、見ていて気分が重くなるばかり。
しかし、鑑賞を始めてから1時間ほど経ったところで、突然、ひとつ目のテーマが現れました。「なるほど、そういうことか!」。俄然、前のめりになります。
美しいモノクロ映像。想像を絶する展開。不意に現れる名優たち
話は辛いが、この映画は映像が凄い。全編モノクロですが、陰影が強調されていて、バロック絵画のような美しいシーンが連続します。カメラワークも縦横無尽で、俯瞰のカットや空撮の映像が巧みに差し込まれています。
そして2時間経過したところで、また凄いテーマが出てきました。「おっとー。そっちに振るか!」。この監督、ただ者ではないと確信しました。
さらに驚愕したのは、終盤、おもむろに砲弾飛び交うスペクタクルな戦争シーンが現れたこと。「そうだった。戦時中だった。それにしてもこれは相当製作費かかってるな」。想定外の展開にクラクラします。先が全然読めない。少年、どうなっちゃうの?
「あれ、何か見たことあるなと思ったら、ハーベイ・カイテルじゃん! ジュリアン・サンズも! そんな役で良かったの?」。名優が、思いがけず随所に顔を出しているのも驚きです。
この映画は、実に静かに始まって、いじめのシークエンスやエロティックなシークエンスをいくつか経て、どんどん派手な戦争映画になっていく。3幕構成ながら、振れ幅が激しすぎて、今まで見たどの映画とも似ていない。監督はバーツラフ・マルホウル。初めて聞く名前ですが、ものすごい才能と本作に懸ける執念を感じます。
レーティングは「R15+」です。暴力描写は辛い、でも、映像は美しい。賛否両論は当然でしょう。しかし、目を背けるわけにはいかないテーマが内包されています。世界のあちこちで人々が分断されているいま、この映画は見る者の心を強く揺さぶります。
オンライン上映会は、2月24日(水)17:00~2月28日(日)23:59。足かけ5日間視聴可能です。チケットは、2月23日(火) 23:59まで発売。料金は1200円。どうぞお楽しみに。