異端の鳥のレビュー・感想・評価
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なんてひどい話、だけど観ておくべき素晴らしい映画!
ユダヤ人のホロコーストって収容所で沢山殺されたイメージだけど、人数からすると街中や収容所以外で「普通のドイツ人」に殺された人の方が多かったと聞いて、大変なショックを受けた事は今でも忘れられません。
この映画もショッキングな映像が数多くあって、消化するのに時間がかかりそうです。
今の私達からすると、子供が独りで身寄りもなく路頭に迷っていたら誰かしらが力になろうとしてくれると思うのだけど、違ってたのね。
むしろ人が沢山いたら、その大勢の人達に殴られたりひどい目に合わされてしまうなんて。
何人かの優しい心を持った人がいた事が、観ている私達の心の傷を多少は浅くしてくれました。
人間の皮を被った獣のような人達。
でも本当は人間ってこんなに残酷なものなのかもしれない。怖いけど。
ナチスやルワンダのツチ族フツ族だって、日本人の戦争中の残虐行為だって、関東大震災の時のデマで朝鮮出身者を殺したのだって、普段は普通の人達。
私達の内なる獣を飼い慣らして「人間らしい人間」でいる為にも、こんな映画は繰り返し作られるべきですね。
それにしてもこの子の心の傷が癒される日は来るのかしら。
余談ですが、
モノクロで説明がなくてショッキングな映像がちらほらあって、東欧とロシアの違いや一方はSFという違いはあっても「神々のたそがれ」が脳内再上映されてしまったのは私だけでしょうか?
いくらなんでもこの内容で3時間弱は長い
原作未読です。
とりあえず言えるのは「この内容で169分の上映時間は退屈に感じてしまう人が多いだろうなぁ」です。
※以下、長文&ネタバレになるのでご注意下さい。
もちろん、この作品と同じかそれ以上に長い作品もありますし、それらの中には作品として評価される、興業としても成功している(もしくはその両方の)映画もあるでしょう。
例としてはロードオブザリングなどでしょうか?
しかし、この映画は「長いなりの退屈させない魅せ方(あくまで映画がエンターテイメントであるという観点)」が少なく、それがこの映画の高いクオリティの足を引っ張ってしまっているように感じました。
基本的には、
第二次大戦下の(おそらくソ連付近のヨーロッパと思しき)架空の国で、疎開した少年がとある出来事から行き場を失う
↓
行く先々で迫害やイジメと言った「悪意ある行いや犯罪」に触れる事で苦しみながら、やがてその悪意や悪意に対する戦い方を少年がその身に宿していく
↓
最終的には少年が物語の冒頭から求めていた望みがついに叶い、自分のアイデンティティを取り戻した事を示して物語は幕を閉じる
という流れになっています。
ですがこの3つの流れのうち二つ目がとにかく長い。
いくつか重要な出来事があるにはありますが、それ以外にも似たような事が起きたり、似たような悪意が示されたりと、
「もっと削れるんじゃない?」と思う所が結構ありました。
悪意の正体や理由も似たり寄ったりです。(殆どDVやレイプ、人種差別など。その理由も嫉妬や性欲、閉鎖的な風土からくる排他主義的思想です)
どれも一つ一つは重厚に、そして人間の内部を時にリアルに、時にコミカルに、時にショッキングに描いていて、それ自体は「凄いなぁ」と思いました。
ですがこの物語は「少年が出会った主要人物」を小見出しとして、殆どオムニバス形式で進んでいくので、繋がりが薄い。
きっと原作を読んだ人からすれば「いや、この物語にはそれぞれ意味があるんだ」とか、「原作よりも整理されている」という感想は出るんでしょう。
しかしそれは「原作ありきの話」であって、この映画から触れる人が面白くないと感じるならそれは「小説の映画化」としては成功なんでしょうか?
あるいは原作ありきの話であるなら「面白いから原作を読んでみよう」と思わせられないのはどうなの?と思いますし、「これでも原作より改善されている」なら原作読む気になるでしょうか?
とはいえ私も不勉強ながら原作がどういうものであるか、(さすがに鑑賞から2日と経っていませんので原作読破は出来ませんでしたが)少しだけ調べてきました。
そして分かったのは「少年が見た光景、感じた事をモノローグとして説明している」という構図があったという事です。
この物語は登場人物がほとんど喋りませんので、それを表情や行動だけで見せていて言葉での説明を大幅に省いていました。それらは素晴らしいなぁと思いました(名優揃えただけの事はちゃんとあると思います)。
しかし、主人公の少年に無名の俳優さん(というか演技経験ゼロ)を起用したのは良いとして、もっと演出や声に頼らない身振り手振りをさせて彼の心情に厚みを持たせるべきだったなぁとも思いました。
特に失語症になるシーンと終盤で収容所で規律を乱したり露天商に報復するシーン。
「分からなくもないけど非常に分かりづらい」です。
特に失語症のシーンはもっとハッキリと「祈りの言葉を唱えられなくなる」「神にすら見捨てられたのか…」という絶望が分かるようにしないと悲劇としてのエモーションが高まっていかないでしょう。
(単に肥溜めに落とされて這い上がって息切らしてるようにしか見えません)
散々「途中退席者多数」とまるでショッキングな描写があると推されてますが、グロかったりショッキングなのは序盤のカラスと目玉をスプーンでくり抜かれた人の目玉とその末路(あとはせいぜい中盤最後のヤギの生首を窓から投げ入れるシーン)くらいで、グロさやショッキングな出来事は殆どありません。
どちらかというと精神的に辛い場面くらいで、その後グロい演出が入りそうかなぁと思うと引き目で撮ったり見切れさせたりして、ちょっとリアルなスプラッター映画よりは見せてくれません。
ただし、映画を通して「靴磨き」というキーワードがこの映画のアクセントになっていたり、原題「painted bird」というワードの意味を残酷にも少年が知るシーンなど、「凄えなぁ」って思うシーンは少年の演出場面にも多々ありましたし、脇を固める俳優さん達も繰り返しになりますが素晴らしかったと思います。
問題はシーンの繋がりとそこで盛り上げる、盛り下げるのメリハリがもっと欲しかったという事でしょうか?
なのでもっと削るか、シーンの意味を(これ以上は相当難しいですが)こちらに納得させる理由を劇中内で示してくれれば、もっと良かったとは思いますが……
とりあえず「途中退席者ガー」云々は気にしなくていいです。
長過ぎてトイレ行きたくなるくらいでしょう。
下記の描写が出てきますので注意
少年がレイプされる。その描写は無いが明らかに分かる少年の泣き声と姿、ズボンを上げる教会信者男
大量のネズミが一ヶ所に集まりうごめく
女主人に性行為を強要される、その描写がある
冒頭直ぐに、可愛く鳴くフェレットが生きたまま油をかけられて焼き殺され、苦しむ鳴き声も長く続く
山羊や馬等が無惨に人に殺される
猫も出るが人からの虐待はない
うちひしがれる。子供が見るべきでないものを見続けさせられた少年の眼は神の眼など通り越して人間の業(自分達と違うものを排除する等)を冷ややかに見つめるカメラのレンズとなる。
①少年が人間(大人)世界の醜さ、戦争の愚かしさ・悲惨さを目撃するところは『ブリキの太鼓』を少し連想させる。ただ、あちらは如何にもゲルマンという感じに対し、こちらは東欧の土俗性が強く感じられる。②まるでモノクロの絵画のような映像美の画面。画面に力があるので眼を逸らせない。3時間近くある長尺だが少しもだれない。悠然と流れる川の様な演出だが最終半はやや駆け足っぽくなったキライはある。③異常に嫉妬深い男が盛りのついた猫の交尾に狂気を爆発させて、妻に色目を使ったと思った使用人の眼を抉り出すシーンはかなり強烈。だが、この後本来子供が見るべきでないものを延々と見せられる少年の眼を抉る代わりとして使用人の眼が抉られたと取れないこともない(その証拠に少年は抉られた眼を使用人に返してあげる。ここで眼が入れ替わったという暗喩か)。④ドイツ(その前は神聖ローマ帝国)とロシアに挟まれていることから歴史の波に揉まれ、また多民族・多文化が併存する東欧のことがわからないと本当にはこの映画を理解出来ないのかも知れない。それでも自分達とは異なるものを排斥する(その最たるものがナチスによるホロコースト)という人間が共通して持つ狭鎰さ(劇中何度もモチーフとして出てくるキリスト教では原罪に当たるのかしら)は世界共通のものであり、失くなるどころか最近はポピュリズムという形で現代社会を覆いつつある。⑤もちろん少年は、観察者というだけでなく普通の子供であれば経験しない目にも会う。数えきれないほど鞭打たれ、性的虐待を受け、生きるために盗みもする。勃たなかっことを好きもの女に詰られた少年は、これ見よがしに女が⚪⚪した相手のヤギの首を落として女の部屋に投げ込む(ゴッドファーザーか!)、敬虔な筈の信者に肥溜めに投げ込まれる(田舎の協会のトイレってあんなのかが分かって勉強?になったがバッチい…カラーでなくて良かった)。人を殺すことも辞さなくなった少年(最初の殺人は自分を守るためだったし…相手は死んでも当たり前の糞野郎…二人目はロシアの兵士の「目には目を歯には歯を」を実行したに過ぎないとも言えるけど)は、やっとさがしだしてくれた父親にも心を開かず氷のような眼を向ける。そんな彼が父親の手に残された収容所で付けられた番号を見て彼もまたpainted bird だったということを理解して、バスの曇った窓にYOSKAという自分の名を書くラストシーン(私達観客もここで初めて彼の名前を知ることになる)は心が震えた。
時間をかけた作品であり、原作の圧倒的な力と俳優の力、さらには素人の...
時間をかけた作品であり、原作の圧倒的な力と俳優の力、さらには素人の主人公少年の力などが反映された圧巻の作品だった。数々の暴力シーンの暴力性はありながらも、自然と映像についてはまた圧巻の美しさだった。
少年がどんな暴力も身に受け、立ち上がって生き抜いていく背景には、いつも美しい自然があり、希望のない映画だと聞いていたけど、人間の真実や複雑性を描いていて豊かな映画だった。視線があんなにものを言う映画はないというか、人間の視線の力に驚く。でも、言葉が圧倒的になく、ある意味、本当に貧しい世界で、信仰が唯一の支えでありながら、その信仰による暴力もすさまじい。人間の愚かさをとことん突きつけられる。
人は愚かで惨虐。
最近、わかりやすく、見やすく作ってあるエンタメ映画じゃないと結構な確率で寝てしまってしょんぼり・・・ってなるので、『異端の鳥』は見るか見まいか迷いました。絶対エンタメ映画じゃないんでね。
でも寝ることなく、夢中で見られました。ひとまずほっとしました。
邦題は『異端の鳥』ですが、原題はthe painted birdです。
中盤で、後に自殺する男にペンキを塗られた小鳥のことです。
あの小鳥は、ペンキを塗られて他の鳥とは異形=異端になったんですね。
で、異端となった鳥は、その見た目の異端さから他の鳥に殺されたのです。
さて、主人公が受けた仕打ちと重なりませんかという比喩、なんだと思います。
ここで群れの中で一人だけ外見が違う、というキーワードから絵本スイミーを思い出しました。
スイミーは赤い小魚の群れの中にいて、1人だけ黒くっていじめられますが、スイミーの働きかけによって、異形を活かして群れに貢献することで許容されるというストーリーです。
小学校の教科書でこの物語を読んだのですが(絵本も読んだかな?)、周囲との差異は許容されるべきだという人生訓として折々に思い出します。
鳥と魚を人に置き換えて考える寓話として、共通項がありながら、結末は両極端です。
スイミーは理想であり志なんです。で、異端の鳥は現実なのです。
我々は、おぞましい現実から理想をめざすわけですが、理想は本当に遠い、と思いました。
主人公が見た目で異物と判断される基準が、私にはわかりませんでした。
東欧のどこかでは、茶色い眼で、濃いいろの髪はユダヤ人かロマであり、地元民(って言葉は適切でないかもだけど)とは違うということなのかな?そんなに東欧では茶色い眼って珍しいのでしょうか…不案内でそこがよくわかりません。
いずれにしても主人公は、ただの子どもでした。善か悪かも未分であった小さき物は、大人からの暴力にさらされ、彼らの仕打ちから暴力を覚えます。
冒頭では、オコジョみたいな狐みたいな生き物を守って森を逃げていた男の子が、後半にはヤギの首を切り取って人を脅かすことになります。人も殺します。
過程を見ていた私には主人公を責められません。
彼に責任があるとは到底思えません。
彼は自分にされた仕打ちから、生きていく方法を選び取っただけに思えます。
彼が出会った人たちが特段異常だったとは思いません。人は斯様に残虐であるということです。
してるかどうかも分からない浮気を疑い、妻を夜な夜な殴打する夫とか(夫きもすぎる)、
息子らをたぶらかした女をリンチして殺す母親たちとか(私は母親たちが異常だと思ってる)、
性的に不能(もしくは未熟)な主人公をあからさまに侮辱する少女とか(ヤギとの性交のまねごとを見せつけるとかきもすぎる←ヤギと性交していたとみる評もあったけど私には振りに見えた、けどどうなんやろ…ほんまにしてたってゆう描写なんだったらよりきもすぎる)
コサック兵とか、ドイツ兵とか、やさしい神父の信徒たちとか、戦争につかれているとか、貧しさにあえいでいるとか、様々な抑圧はあるんだろうけど、10歳程度の子どもにすることか?とおもえる残虐さが見せつけられます。
この75年ほど前の虚構が見せつける残虐さは、2020年の人間にももちろんみられる残虐さです。
私にもないとは言えない、醜い感情、行動(は私はしてないつもりだけど)…
人は醜いという現実を、重ねて知ることになりました。
後半のあらすじを雑に綴ると以下の感じです。
性的虐待きもきもヤローをネズミに食わせて逆襲し、やさしかった神父の元へ行ったら神父は死んでて、その葬式で朦朧として失敗したら地元民にドブ?肥溜め?に投げ捨てられて、それ以降声を失った、んだそうです。
だそうですっていうのは、見ていて気付いたからではなく、鑑賞後にコラムとか読んでなるほどと思ったわけですが。
で、ソビエト軍にちょっと囲われ、多分その時にはもう第二次世界大戦は終わってるっぽくて、その後孤児院にたどり着きます。
で、お父さんって人が迎えに来るけど、声は失ったものの、言動で父を責めます。机の上の食事をぶん投げるだけでは収まらず、廃屋?の窓を割りまくり、荒れ狂います。
そのまま終わりかと思ったら、お父さんとバスにのってお母さんの待つおうちに向かいます。
憔悴しきったお父さんの腕には、数字の入れ墨(ナチスが強制収容所の囚人たちに彫った番号、いろんな映画に出てきます)があります。
憔悴したまま目を閉じるお父さんをみて、主人公は、埃っぽいバスの窓ガラスに指でヨスカと自分の名を書き、映画は終わります。
映像はモノクロで、セリフは極少です。カラフルに感じるモノクロ映像ってゆうのがあるんですが(『COLD WAR あの歌、2つの心』とか)、『異端の鳥』はそういう感じではなく、色彩を失ったという雰囲気のモノクロです。
わたしは分かりにくいとは思いませんでした。
コサック兵とロシア兵の違いがよくわからなくって混乱しました。
復習したところ、コサック兵とはざっくりいうとウクライナらへんにあった軍事共同体(ってなんぞや)で、WWⅡではドイツ軍側についたらしいです。
惨虐な映像も多いので、万人に勧められるタイプの作品ではありませんが、良作だと思います。
【第二次世界大戦中、”ある人種”の少年が経験した苛烈過ぎる日々を描いた作品。現在でも世界に蔓延するレイシズムに対する強烈なアンチテーゼを示した作品でもある。】
ー 冒頭、少年は叔母と荒野の小屋で二人暮らしをしている。
少年は両親らしき人物と映っている写真を大切そうに眺めている。
が、ある日叔母は椅子に座ったまま動かず・・、少年は夕方まで自室で待つが様子を見に行き、死を確認した後、驚きの余りランプを床に落としてしまい、叔母の家は少年の大切な写真と共に燃え上がる・・。
全てが灰になった世界に立ち尽くす”非力な”少年・・。-
■今作品には、ナレーションは一切ない。
セリフも必要最小限。観ている側に提示される情報も極めて少ない。
モノクローム映像が、少年が経験する余りにも苛烈な数々の事を、章立てで、淡々と映し出していく・・。
<”名もなき少年”が経験した苛烈な出来事、幾つか・・>
・叔母の家を離れた少年は、祈祷師の老婆の所に連れて行かれ、”この子の黒い目は禍を運んでくる・・。吸血鬼だ・・”と宣託され、老婆の助手として働かされる。
・その後、ある老人一家の家に居候状態で転がり込むが、その家の主(ウド・キア)は若き妻と使用人との関係を訝しんで、夕食時、酒に酔い、スプーンで使用人の目玉を抉り出す・・。
ー うわわわ・・。”本気の”ウド・キア、怖すぎである・・。狂気を漂わせた目が怖すぎる・・。-
・野鳥を飼う老人とも、短い間共に暮らす。老人はロマらしき女から野鳥を買い、時に女と交わる。
女は村の男の子を挑発し・・、淫らな行為に及ぶが男の子たちの母親にバレ、厳しすぎる罰を女たちから受ける。そして、老人も又、自ら命を絶つ・・。
ー 老人も、ロマに近い存在かもしれない・・。
老人が傷ついた鳥の羽を治療し、空に放つシーンは今作を象徴しているシーンの一つであろう。大空を舞う鳥の群れは、
”羽に白い治療薬を塗られた鳥”
を受け入れず、地面に叩き落とす・・。
その鳥を掌に乗せる少年の表情・・。-
・少年は、ナチに捕まるが、”憂いを浮かべた”ナチの将校(ステラン・スカルスガルド)は少年を”射殺した事”にして逃がす・・。
ー今作では、”3人だけ” ”人間の善性もしくは矜持”を持った人物が描かれる。このナチの将校もその一人である。-
・少年は再び、ナチに同人種の老人と捕まるが、司祭(ハーヴェイ・カイテル)に助けられ、ある”罪を償った”男(ジュリアン・サンズ)と共に住む。
が、男は司祭の前では殊勝な顔をしているが、少年に対しては本性を現し、凌辱し、”司祭には言うな”とロープで吊るし、犬を嗾け脅す・・。
ーこの司祭は上記の3人の一人である。
司祭は男の本質を見抜いているのだが、”頼むぞ・・”と言葉を掛け、男の善性が戻ることを期待したが・・。司祭は病で亡くなる。
”男の塹壕での哀れな末路を観ていると、人間が一度、無くした善性は簡単には戻らないのか・・。”と暗澹たる気持ちになる・・。-
・少年は、凍った湖を歩く。時に氷が割れ、水中に落ちようとも、前進する。湖畔に立つ小屋が見える。そこには、病の老人と孫娘らしき女。春が来て、老人は亡くなり女は露骨に少年にみだらな行為を迫る。そして、ある晩”人間として、一線を越えた行為”をしている女の姿を少年は見てしまい・・。
ー少年は、ロバの首を切り落としたが、あの淫蕩な女が同じ目に会ってもおかしくないだろう・・。
ロバの首を女の寝ている小屋に投げ入れ、少年はその忌まわしい地を後にする・・。-
・少年は貧しき村でひっそりと生きていたが、コサック兵に襲われる村。何の罪もないのに殺戮される村人たち。が、そこにソ連兵がやってきて、コサック兵を追い散らす・・。少年は、ソ連兵の将校の傍で暮らすようになる。
ーこのソ連兵の将校が3人目の”人間の善性もしくは矜持”を持った人物として描かれる。仲間が野営地を出て地元民に襲撃された時に、この将校は少年を連れ、高い木に登り、少年に”良く見ていろ・・”と言い、ライフルで地元民が集落に狙いを定め、男達を撃ち殺す。
そして呟く ”目には目を・・、歯には歯を・・だ。”
そして、少年に”拳銃”を渡す。-
・少年は、街中で”ある人種”であることを、ある商人から激しく罵られ、殴打される・・。
- 少年が、その男に行った報復。且つては、”非力で”何もできなかった少年が・・。
”ある忌まわしき概念、思想”が齎した悲しき出来事であろう・・。-
・そして、ソ連兵の宿舎に待ちに待っていたはずの父親が現れるが、少年は笑顔一つ見せない。父親が作ったキャベツのスープも口にしない。父親は悲しそうな顔で少年を見つめ、”仕方がなかったのだ・・”と言う・・。
ーあれだけ、次から次へと苛烈な体験をしたのであるから、少年の対応は仕方がないよなあ・・。父親の哀し気な表情から、その痛みが観ている側にも伝わってくる。
が、少年も父親も悪いわけではない。生き残るためにした決断なのだから・・・。
では、その責任はどこにあるのか・・。-
<父親と二人でオンボロバスで家に戻っていく少年。疲れて眠る父親の腕には、ナチによって入れられた刻印が・・。
そして、少年はその刻印に目を置いた後、曇ったバスのガラス窓に”ヨスカ”と指で書いた・・。
少年が、実に久しぶりに、”一人の人間”に戻った瞬間だった・・。>
■モノクロームで淡々と・・、
苛烈な出来事を、”これでもか!”と観客に静かなトーンで、叩きつけてくる作品。
現代社会に蔓延る、自らにとって”異質なモノ”を拒絶するレイシズムに対する激しい怒りを込めた作品。
とても重く、正視しにくい場面も多数出てくるが、腹にズシンと響く、骨太過ぎる作品でもある。>
■蛇足 <2020年11月7日 追記>
・劇中、少年たちが交わす言葉が”何語”か分からず、”私もマダマダだなあ・・”と思いながら鑑賞していたが、先日判明。
スラブ語民族の人口共通語「インタースラーヴィク」であった・・。
バーツラフ・マルホウル監督の今作の映画化への執念(原作と出会ってからの準備に11年。脚本作りに3年。少年が成長する様を描くため、撮影に2年。)にも、勿論敬服した作品である。
誰かが塗る
モノクロームの画面が恐ろしいまでに美しい。
それはまるで、写真展に飾られたシルバープリントのようだ。
しかし、描かれているのは、目を背けたくなるような悲劇だ。
原題はThe Painted Bird。
このタイトルの意味するシーンは前半のうちに登場する。
絵の具で色を塗った鳥を群れに放すと、群れはその鳥を排除しようと攻撃し、殺してしまう。
paintは他動詞だ。
つまり、必ず「誰か」が「誰か(何か)」を塗るのだ。
このシーンでも、paintする=鳥に色を塗るのは人間だ。
主人公の少年は、身寄りがなくなり、さまよい歩く中で「塗られ」、迫害される。
「ユダヤ人だ」「悪魔の化身だ」などと。
また、周囲の大人たちも「塗られ」て、ひどい目に遭う。「女房に色目を使った」「子どもをたぶらかした」など。
誰かが「塗る」から、人が人を排除する。
その愚行を、本作は短編集のように、短いストーリーを次々と繰り出し、これでもかと積み上げていく。
終盤で少年の父が現れるのだが、彼の腕には数字が刻印されている。強制収容所にいた印である。
しかし、本作はナチスのユダヤ人迫害を、特別に取り上げているわけではない。
人の世には「塗る」ことによる差別や排除と、これに伴う争い(戦争)や暴力に満ちていて、あくまでホロコーストは、その一部に過ぎない、という描き方をしている。
悲しいことに、ナチスドイツが戦争に敗れ、ソ連が支配するようになった場所でも、少年は「ユダヤ人だ」として差別を受ける。
「塗る」ことの悲劇は終わらないのだ。
本作の各パートは、登場する人物の名前がタイトルになっているのだが、彼らが名前で呼ばれることはほとんどないし、さらに言えば主人公の少年が名前を呼ばれることは皆無だ(そもそも名乗らない)。
ラスト、家族の待つところに向かうバスの窓に、少年は指で自分の名前を書く。
彼が名前で呼ばれる生活を暗示しているのが救いである。
ただただツラい
10歳位かな?
主人公の男の子。
動物を可愛がったり、ピアノを弾いたり
きっと育ちは良い家柄なんだろう
疎開先から家に帰る、と歩き始めるも
永く辛い道程·····
時代的に女にも子供にも容赦がなく、
見るに堪えない場面が多々。。。
出逢う大人たちが多種多様な悪いヤツばかり
幸か不幸か次々と大人達に拾われて、
でも良いのは始めだけですぐに不幸が訪れる
心身共にボロボロになりながら
たまに良い人に出逢うから生き延びてしまう。
·····この子は不幸を呼ぶ子なのかしら?
だんだん、やり返す事を覚えてく
「目には目を歯には歯を」
最後お父さんと出会った時の目つきが怖かったから
どんな仕返しするのかと冷や冷やしたけど、
たぶん大丈夫だったみたい。よかった。。
ほぼ音楽も無く、主人公もほぼ喋らない
少し違うけど新手のホラーテイストが「ミッドサマー」の様で、個人的に受け付けない作品でした
なんと言っても
虐待場面がひどく目に焼き付いて困る↓↓↓
色を付けて群れに返した鳥
仲間達に襲わせる為にわざと色を付けたのなら、何故?
人と動物たちの、生きる事や命の重みを感じられ、
内容が苦痛ではありましたが眉間にシワを作りつつ、
白黒映画で3時間。良い体験でした( ・᷄ ・᷅ )
人間の残虐な本質を崇高なクオリティで描いた凄い作品
凄まじい作品を観ました。おそらく、その凄まじい歴史が刻まれた国(チェコ、スロバキア、ウクライナ)でない、日本では絶対に作れない映画でしょう。
2時間50分の尺に収められた、何年もの長い長い地獄の旅路を観客は共に歩むことになります。
時代性、現実味を排除した美しい風景の映像美。それを素晴らしいクオリティで見せてくれます。一方で、匿名性と普遍性を持った「よくわからない時代や国、土地」で生きている普通の人々が起こすいじめ、叱責、闘争、リンチなどの異質排除の行動。
主人公の少年は、何度も逃げ延びて、また何度もそういう酷い目に遭います。
目を覆うような経験を何度もする中で、無垢な子供の心は、人間の持つ本質によって汚され、確実に変質を遂げていきます。
自分と共に居た、可愛がっていた動物をその手で埋めていた少年は、映画の最後付近では、自分に危害を加えた大人を「銃殺」という形で復讐します。
人間は、本来は共食いや弱肉強食の摂理に抗うことのない存在であること、それが異質排除という行動に現れることを、過激に、冷徹に、映画を見る私たちに突きつけて来ます。
ある象徴的なワンシーンとともに。
繰り返しますが、とにかく「凄まじい」映画です。原作は映画よりもっともっと過激だという記事を読んで身体が震えました。
(原作は母国ポーランドで発禁になり、原作者のイェジー・コシンスキは自殺しているようです)
しかしながら、私たち人間の本質にはこのような異質排除に伴う残虐性が存在するのだという、深い問いに気付くこともできるのです。
この先も、何かあるたびにこの映画を思い出すのではないか、そんな「脳にこびりつく」映画であることだけは言えると思います。
勇気を持って、映画に包含された「真実」や「本質」を見て、考えていただきたいです。
一生忘れられない映画の一本になると思います。
モノクロが印象的でした
人の業と言うか、性と言うか、子供には耐えられないシーンの連続で、何度も目を避けたくなりました。
疎開先から父親に会うまで何年旅をしていたのか・・。
自分だったら、生き抜いて行けるのだろうか・・・。
結局悪いのは、子供を物としか考えていない大人達。
戦争だからでは仕方ない・・では済まされません。
この作品を観てしまった後は、人生観が変わっているかもしれません。トラウマ的作品です。
さて作品の作りですが、モノクロで作っているので明暗が強調され、人の業がより際立っていました。
作品の内容からして、モノクロにしたのは大正解ですね。
気色の悪さはそれなりに
確かにおかしな人達がいっぱい出てきて、これが人間なんだろうか?なんて思ったりするのですが、
悲しいとか辛いとかそれよりも私には気持ち悪いという感情の方が強かった。
あんなに色々な動物が登場するのは知らなかったし
それはほんとにびっくりでした。
動物は何の為だったのかよく理解できない。
弱い者は徹底的にやられるって事なのかな。
途中、馬がでてきたときは、あっ、いやだ、今度は馬なのね・・とがっくりきた。
その後、ねずみの大群が現れた時は、なんとも嫌ーな予感がしたが、間もなくそのいやーな予感は的中だし。
うん、あの可哀そうな少年はやられたらやり返すを習得するんだわ。
まぁそりゃそうよね。
あのまま我慢に我慢を重ねてたらアタマおかしくなるだけだし。
なんか自分でも何が言いたいのかわからなくなってきた。
そう、気持ちの悪い映画だったって事。
でも私は好きかな。
食う、貪る、という人間の性(サガ)
異質な存在を排除し、される。しかし生きるために食う。快楽を貪る。ほんの少しの安らぎを求める。そのためだけに次の場所を求める。人間の本性はそれだけのことかもしれない。
白く塗られた鳥は仲間外れにされ大地にたたきつけられ死ぬ。見た目が違うだけで?或いはユダヤという生まれながらの本質は、白く塗られていなくても嗅ぎ分けられてしまうのか。
いや、Joskaという名前は忘れるはずもない。本質はJoskaという立派な自分なのだ。人間の本性は、生きていこうとするJoskaそのものなのだろう。
評価が分かれる作品
思ったよりも、過激な映像表現は無かったと思います。
ただ、内容は壮絶です。
露悪趣味と見るか、戦争を多角的に捉え従来に無い
切り口で描いたのか、見方によって評価が分かれそうな
作品だと思います。
無力な少年が状況に翻弄され過酷な現実の中で心を
閉し言葉さえ失ってゆく。
ラストシーンの意味を自分なりに理解するにはもう少し
時間が欲しいと思います。
意外にもテンポ良く進むので3時間でも長く感じません
途中退出する人を数えるのも一興
地獄巡りという見方もあるが、少年が10倍速くらいで「大人」になる話と云えなくもない。最後に主人公があるものを取り戻す、この映画の数少ないポジティブな件りに、逆に欧米人のニヒリズムの深さが垣間見えて興味深かった。
プライベート狙撃手
プライベート・ライアンの狙撃手だったバリー・ペッパーがソ連兵役で出てきてギョッとしました。まさかと思いましたが何度観ても本人。うれしい誤算でした。ファンは観た方がいいですよ〜
不謹慎ですが、やさぐれた気分だったので、いつもなら行かない長尺の拷問を求めて鑑賞。
入りはともかく、観終わると案外ストレートなホロコーストものでした。
しかもアクションシーンあり。
↓ほんのりネタバレ
小難しくて拷問みたいな映画かなと思ってましたが、意外と普通の劇映画。
尺が長いことを除けば「ミッドサマー」の方が拷問度高いのでは?
観客の途中退場の話も、凄惨さゆえでなく、前半の単調さに見切りをつけたからでは? と穿って見てしまいます。
監督は否定してるようですが、やはりホロコースト映画というのは定期的に観るべき題材だと思うので、この機に鑑賞できてありがたかったです。
ただ…気軽な気持ちで観ることを拒む3時間の長尺、難解でハードな内容を想起させるビジュアルとアオリが逆に観客を遠ざけかねないのでは?
正直、この内容なら前半をもう少しコンパクトにしてもっと多くの人に届くのでは…と思ってしまいました。
白黒撮影の画面は文句なく美しくて、フェティッシュを刺激されてベルイマン映画とかみたくなってきます。ちまたでは黒澤映画と言われてるようですが。。
時計は見ていなかったですが、体感的に2/3くらいは淡々としたトーンで少年の苦難の旅が描かれます。
身寄りのない少年が大人に保護されては酷い目に遭う、こいつもダメだったか、みたいなのの繰り返し。
この反復は昔話とか民話みたいで、退屈ではないけど眠くなりました。
きっとこのまま静かなトーンで最後まで行くんだろうな…とこちらが馴らされたあたりで突如として大殺戮シーンが始まってアドレナリン全開、一気に目が覚めました。
こんな映画だったのか! と。
さらにあの人まで登場…ちょうどプライベートライアンを見直したばかりだったので鳥肌たちました。
大人たちは主人公を弾圧されている被差別民であり、また子供であるぶん反撃されないとタカを括っているのか、遠慮なくえげつない本性を見せつけてきます。
この、弱い立場の人間にこそ容赦なく振る舞うってのは万国共通の普遍的人間性なのかなあ。おそらくそこがテーマなんでしょう。
しかもハーベイ・カイテルを除けば敬虔そうなクリスチャンほどやることがえぐい。
作劇上の都合や、相手が異教徒だというのもあるのでしょうが、それだけに止まらないような印象でした。
日頃から口では綺麗事を言って自分の罪に向き合わない人間より、明日をも知れない過酷な現実にさらされている人間のほうが弱い者に親切、というのには単なる皮肉で終わらない視線を感じます。
ただ、各パートが短いので、えげつなさの上限にも限りがあるというか、深まったり上積みされたりしないぶん、表層的なダメさの陳列になってしまってるというか、確かに酷いけど、こちらの心が抉られるほどではなかったかなあと。
とはいえ最低限のセリフと芝居で淡々と必要な情報をこちらに理解させる演出は見事で、脚本も含めて安定したテクニックを感じさせます。
なにより主人公の少年役が子役でもなんでもない普通の少年だってことに驚愕。
どんな手を使ったらあんな芝居ができるんだろう…やはりこの監督の手腕は素晴らしいと思います。中の人のメンタルが心配になってきます。
前半は当面お腹いっぱいですが、後半はソフトかなにかで観直したいなあ。
思っていたよりもマイルド
途中退席する人もいると言う話だからどんな重たい話が待っているのかとおもいきや、そこまで目を覆う程ではなかった。
途中退席した人は淡々と続く優しくない人々の連続に疲れて、この先もこれ続くの?
って感じだったのではないだろうか?
個人的に1番印象的なのは表紙にもなってるカラスに攻撃されるシーン。
痛いでしょあれは!
と、いいつつも色々印象に残ったシーンの連続ではある。
新しくお世話してくれる人、次はまともな人かなあと思う度問題人物だらけ。
安息の日々はないが、その都度スキルアップというか生きる力を学んでいくのはすごい。
幼いながらも男としてのプライドを傷つけられたシーンは涙なくしては語れない。
軍人とのやりとりはほとんどセリフのない中とてもよかった。
白黒映像なのは雰囲気作りに一役かっているがカラーだったら魅力は下がっていたかもしれませんね。
3時間今度はどんな目に!と淡々と見てしまうので感情移入するというよりはどんよりエピソードを見るイベントみたいな感じなのでどこか他人事の様に見てしまった。
タル・ベーラ作品を思わずにはいられない傑作
ナチス占領下の東欧。ホロコーストから逃れるために両親と離れ叔母が住む田舎に疎開した少年。叔母か死に一人で旅に出ることに。
行く先々で受ける迫害は少年がユダヤ人だからか、単によそ者だからか、彼に対する仕打ちに容赦はなかった。
戦後もロシアの影響下で抑圧され続けた東欧諸国。ナチスを隠蓑に、むしろロシア時代の閉塞感、壊れゆく人間たちを描いたといえる傑作だ。
そう、スタイルこそ違えどタル・ベーラを思わずにはいられなかった。今年のベストの一本だろう。
長いけど見応えあり
モノクロの静かな感じだと思いきや、少年が行く先々で酷い目に合い、酷い光景を目にしたり、酷い仕打ちを受けるけど、少年は何も語らずに残酷な日々を過ごしていく、余りに少年の行く先に不幸があるから、悪魔の少年かと思うが、残酷なのはまわりの人間だった。
ずっと地獄
ナチスのホロコーストから逃げるために少年が居場所を探して放浪していく話。
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映画は少年が関わる人ごとに章分かれしてて、その出てくる人ほぼほぼヤバいやつしかいない。ちょっと優しいかと思えば、変な性癖持ってたり、まともな大人が誰もいない。
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というか全員頭悪いんだよな。特に教会で少年が重い本をお祈りの最中に謝って足を踏み外して落としちゃう場面があるんだけど、それにキレて大人が肥溜めに少年を突き落とすっていう。あんた達教会に通ってるのに何を学んでるんだよ。普通に知能指数が0すぎて引いた。
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次から次に残酷な描写を見せられるので、よくもまぁそんなに酷いことを思いつくなと、原作は発禁書になってるらしいけど当たり前だわ。作者相当悪趣味だわ。見てるこっち側も感覚が狂ってくるので、次はどんなひどいことを見せてくれるんだと少し期待してしまう。
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そこは少年もだんだんとおかしくなっていくのと同じように、観客側も残虐的になっていく気分を味わされてるんだろうな。
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