「映像美と過酷な戦時下」異端の鳥 からあげクンさんの映画レビュー(感想・評価)
映像美と過酷な戦時下
ユダヤ人の少年がナチスから逃れつつ、いく先々で凄惨な目に遭う映画。
全編モノクロかつBGMも無い。
"主人公の少年"を描くというよりかは"少年にスポットライトを当てている"という感じで、ありのままの事実を誰にも肩入れせずに映し出しているため非常に淡々とした印象を受ける。
派手さは無いが、3時間飽きずに見る事が出来る。映像に過不足が無く、誰が何処で何をしているかがはっきりと分かりやすく、まるで自分が透明人間になってその場にいるかのような臨場感が感じられる。
映像作品としてレベルが高いと思った。
この映画を観終えて真っ先に感じた事は「人の善意」についてだ。
少年はたどり着いた全ての村で暴力を受けたり、人としての扱いをされなかったり、本当に本当に酷い目に遭う。そして、ストレスで発語能力を失い、大人しい性格だったのが暴力的に変貌していき、ついには人を殺すようにまでなってしまう。
その後、父と再開を果たし、いっしょに家に帰ろうと促されるも、自分をこんな目にあわせておいて何だ!!と激昂する。
家に帰るためのバスに乗り、不貞腐れる少年。
意地でも父と視線を合わせまいとしていたが、居眠りする父をこっとり見ると、腕に収容所の識別番号が刻印されていることに気づく。
父は少年のためを思って彼を疎開に出した。そして父もまた、収容所で壮絶な生活を送っていたのだった。
少年がバスの窓に指で自分の名前を書く。
もう一度人を信じる事を思い出し、自分の人生を歩んでいくのかな、そう思わせるラストだ。
人の本性は野蛮なものだ。
本来は自分の欲望のためなら平気で人を傷つけるのが人間だ。
それでも、過酷な戦時下でも人への思いやりを失わなかった人達がいる。
この過酷で絶望的なモノクロの世界の中で、揺るぎない人の想いだけが暖かな色彩をもっているかのように見えた。
胸糞映画かもしれないが、ラストは明るいと思うのでオススメです。