「少年の目を通して描かれる悪意の寓話」異端の鳥 REXさんの映画レビュー(感想・評価)
少年の目を通して描かれる悪意の寓話
パンフレットを読むと、原作は作者の実体験に忠実なものではないらしい。
それを知って少し安堵した。一人の人間がこれほどまで完璧な悪意の数々に出くわすだろうか?と訝しんでいたから。
この映画は少年に向けられた悪意というより(もちろんその場合もあるが)、少年の目を通して人間の獣性を露わにしていくもので、モノクロの画(え)はどこかおとぎ話のような凄惨な美しさを秘めている。
使用人との浮気を疑い妻に暴力をふるう夫、売春婦と息子が姦通したことに腹をたて、売春婦の膣にボトルを差し込み殺してしまう主婦たち、敬虔なクリスチャンのふりをして少年を手籠めにする農夫。
閉鎖的な空間で自分が優位に立ちたいという生理的な欲求と虐げられる弱者。
一番心に堪えたのは、小鳥を逃がすふりをして、実は仲間から攻撃されるようにしむけた鳥飼のエピソード。
自分よりも弱い動物を守り、涙する心を持っていた優しき少年は、次第に感情を失っていく。しまいには失恋の腹いせに、恋した女性の家畜の首を切り落とし、部屋に投げ入れるほどの攻撃性を見せる(ゴッドファーザー2を思いだした人は私だけではあるまい)。
少年の旅する世界は架空の世界で、言語はスラブ語をベースにした、これまた架空のものだという。
ラマや、コサック、ロシア兵などの実在の名詞は出てくるが、地域を限定しないことでより抽象的に描いたのだろう。
戦時下の人間は自分本位になりがちだが、兵士以外の一般人においては、この映画のようなむき出しの攻撃性は見せないのではないだろうか。
それよりも、「積極的な消極性」が際立つのではないかと、個人的には思う。要するに「苦しむ人を助け〈なかった〉」「捕虜に水をあげ〈なかった〉」「病気の人を防空壕にいれ〈なかった〉」「みなしごを見殺しにした」などなど…。
何が言いたいのかというと、登場人物の行動は残虐と非道という点で、あまりにステレオタイプで芝居がかっているということ。
ただ、自分も戦争のような極限状態になったら、描かれた人間たちと同じように底知れぬ悪意を見せるのだろうか…と、潜在的な恐怖を感じた。時代が狂っていると、自分が狂っていることには気がつかない…そんな気がする。
お初にコメントします。確かにゴッドファーザー2の馬の首🐴には驚きが隠せませんでしたね。山羊🐐に変わり窓ガラス割れる此方も底知れない恐ろしさと底知れない憎しみを感じますね。